避け――
「志人、合わせろ!」
健人が叫び、再び距離を詰める。志人もまた、手元にある精密な武器を絵里の死角へと放った。
二人の息の合った、寸分の狂いもない同時攻撃。
並の能力者であれば、確実に肉体を切り裂かれているはずのタイミングだった。
「『万雷の楔』」
絵里の唇が動く。
刹那、ビルの天井を突き破るようにして、無数の雷撃の槍が空間に創造され、猛烈な勢いで降り注いだ。
「くそっ……!」
志人が咄嗟に健人を突き飛ばし、自身も床を転がって直撃を避ける。
だが、掠めた電撃の熱量だけで、志人の衣服が焦げ、激しい痛みが彼の肉体を苛んだ。
絵里はずっと、その不気味な笑みを絶やさない。一歩も動くことなく、ただ口を動かすだけで、戦況を完全に支配していた。
「ねえ、健人君。君、今どんな気持ち? 『もう誰も殺さない』なんて可愛い女の子と約束しちゃってさあ。復讐を忘れて綺麗な世界に戻ろうとしてたのに、お友達を殺されちゃって、また人殺しの目に逆戻り。あはは! 傑作! 滑稽だねえ!」
「黙れ……っ!」
健人の心に、どす黒い怒りが渦巻く。
その感情の乱れを突くように、絵里の嗤い声が脳内に響き渡る。
「私のために怒って、私を殺すためだけに牙を剥く。君の人生、ぜーんぶ私に振り回されてる。そんな歪んだ顔で復讐しようとする君を見てると、本当にかわいくて、ゾクゾクしちゃう!」
絵里の存在そのものが、あまりにも不気味で、常軌を逸していた。
戦う動機も、その能力の底知れなさも、人間の理解を超えている。眼前にいるのは人間ではない。災厄そのものだった。
「『重力の鎖』」
絵里がさらに唱える。
二人の周囲の重力が突如として数十倍に跳ね上がり、健人と志人はその場に激しく叩きつけられた。
コンクリートの床にひびが入り、身体が数センチメートルも動かせないほどの絶対的な重みが、上空から二人を圧殺しようとする。
「が、はっ……!」
志人が血の混じった息を吐き出す。
健人もまた、歯を食いしばりながら必死に能力で抵抗しようとするが、絵里が次に紡ぐ言葉の方が圧倒的に早かった。
「『終焉の業火』」
絵里の指先から、アジトに残っていたすべての物質を分子レベルで消滅させるほどの、圧倒的な赤い爆炎が創造される。
「健人、避け――」




