いつもどおり
東京の狭い空を真っ赤に染め上げる夕焼け。
それが、小学校の校舎を長い影で覆っていく。
グラウンドからは、カキーンと金属バットがボールを捉える快音。
そして、泥だらけになって白球を追いかける少年たちの元気な声が響いていた。
あの日、桜の木の下で泣きじゃくっていた4歳の美有。
そんな美有の手を、温かく引いてくれた少年――中山健人。
あの最悪で、だけど奇跡のようだった出会いから、気がつけば5年の歳月が流れていた。
時の流れは、子どもたちにとって何よりも早い。
あんなに小さくて、お父さんとお母さんを求めて毎日のように泣き叫んでいた美有。
そんな美有もすっかり大きくなり、今では小学校4年生になっていた。
親戚の家での暮らしにも慣れ、東京の街が第二の故郷になりつつある。
もちろん、今でもふとした瞬間に胸の奥がチクリと痛む夜はある。
けれど、あの頃のように我を忘れて泣きわめくような泣き虫の美有は、もういなかった。
そして、あのとき少し大人びていた健人もまた、大きく成長していた。
小学2年生の春に「なんとなく面白そうだから」と始めた野球。
持ち前の負けず嫌いな性格と、人一倍の努力、そして抜群の運動センスが爆発した。
今では小学校の野球クラブ『東京少年野球団』で、誰もが認める絶対的なエースピッチャー。
そして、頼れる4番バッターとして活躍していた。
「――よし、今日の全体練習はここまで! 各自、道具を片付けて解散!」
監督の大きな声がグラウンドに響き渡ると、
「ありがとうございましたっ!」
という少年たちの威勢のいい返事が返ってくる。
美有は、グラウンドの脇にあるベンチに座って、その様子をずっと眺めていた。
健人の家と美有の親戚の家が近所ということもあり、保育園の頃から二人はいつも一緒だった。
一緒に遊んで、一緒に帰るのが当たり前。
小学校に上がってからもその習慣は変わらない。
健人が野球の練習を終えるのを、美有がこうして図書室やベンチで待つ。
それが、二人の『いつもどおり』の日常だった。
汗をふき、ユニフォームの膝についた砂をパンパンと払いながら、健人が美有の方へと歩いてくる。
手には、お気に入りのグローブと、すっかり使い込んだスポーツバッグが握られていた。
「待たせたな、美有。今日も長引いちゃって悪りぃ」
「ううん、全然大丈夫。本を読んでたから気にならなかったよ。お疲れ様、健人」
美有は立ち上がり、にこりと微笑んで自分のランドセルを背負った。




