あたたかい手
あの日、お父さんとお母さんが残してくれた、あの桜のブローチだった。
美有はいつも、このブローチを特別なお守りとして、服のポケットに大切に入れていたのだ。
「あ……」
健人は足を止め、砂の上に落ちたブローチをそっと拾い上げた。
手のひらの上で、ピンク色のガラスが太陽の光を浴びて、キラキラと優しく輝いている。
健人はそれをじっと見つめたあと、しゃがみ込んで美有の前に差し出した。
「これ、美有ちゃんのブローチでしょ? パパとママにもらった大切なものだから、大事に持っておかないとダメだよ?」
健人の声は、さっきよりもずっと柔らかくなっていた。
幼いながらも、美有が抱えている深い悲しみを、そのブローチを通して察したのかもしれない。
美有は涙をこすりながら、健人の手のひらからブローチを受け取った。
お父さんとお母さんの温もりが、まだそこに残っている気がした。
「うん、ありがと」
美有は小さくうなずき、胸の前でブローチをぎゅっと握りしめた。
まだ涙は止まらなかったけれど、不思議と、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じていた。
「これは、パパとママの形見だから……私が大切に持っておかないと」
泣いてばかりじゃダメだ。
お父さんとお母さんが命がけで守ってくれたこのお土産を、私がずっと守っていくんだ。
4歳の美有の心の中に、小さな、けれど確かな強さが芽生え始めていた。




