中山 健人
数日後。
美有は遠くの街に住む、親戚の家に引き取られることになった。
生まれ育った家を離れて、新しく通い始めたのは東京にある賑やかな保育園だった。
周りの環境はすっかり変わってしまったけれど、美有の心の傷が消えることはなかった。
お昼寝の時間。
みんなが楽しそうにお絵描きをしている時間。
美有はふと寂しくなって、何度も大泣きしてしまった。
どれだけ泣いても、どれだけ叫んでも、もうお父さんとお母さんには会えないからだ。
ある春の日のこと。
保育園の園庭のすみで、美有はひとり、満開の桜の木の下にしゃがみ込んでいた。
風が吹くたびに、ひらひらと舞い落ちるピンクの花びら。
それを見つめながら、美有は小さくつぶやいた。
「桜よ桜、もういちどおとうさんとおかあさんにあわせて……」
ぎゅっと目を閉じると、あの日、笑顔でお留守番を頼んできた二人の顔が浮かんでくる。
でも、目を開けるとそこにいるのは、知らないお友達と知らない景色だけだった。
「……うっ……ああああ、おとうさん……おか……あさん」
ガマンしていた涙が、次から次へとあふれ出して地面を濡らす。
美有は膝に顔をうずめて、激しく泣きじゃくった。
「ねぇねぇ、そこで泣いてないで僕と遊ぼ?」
突然、頭の上から声が降ってきた。
少しあきれたような、でもどこか落ち着いた声だった。
美有が涙をこすりながら顔を上げると、そこに一人の男の子が立っていた。
すっきりとした黒髪で、同じ保育園生なのに、なんだか少し大人っぽい雰囲気の男の子。
その男の子の名前は、中山健人。
この保育園で、いつも一人で本を読んでいるような、少しクールな男の子だった。
けれど、今の美有にはそんなことを気にする余裕なんてない。
「お父さんとお母さんに会いたいよう!!」
寂しさと悲しさを全部ぶつけるように、美有はさらに大声で泣いた。
そんな美有の大泣きっぷりに、健人は一歩後ろに引いて、困ったように頭をかいた。
「……これはまたせんせーを呼ばないと……」
健人はやれやれとため息をつき、先生を呼びに行こうと振り向いた。
その時だった。
美有のポケットから、キラリと光るものが滑り落ちて、砂の上を転がった。




