のこされた桜のブローチ
お昼を過ぎた頃。
外はすごい大雨になっていた。
前が見えなくなるほどの激しい雨の中。
お父さんとお母さんを乗せた車に、向こうから滑ってきた大きなトラックがぶつかってしまった。
物凄い音がしたが、雨の音にかき消されていく。
お父さんとお母さんは、美有の待つ家へ帰る途中で、交通事故に遭ってしまった。
本当に、一瞬の出来事だった。
夕方になって、何も知らない美有のもとに、警察からの知らせが届いた。
まだ4歳の美有には、「お父さんとお母さんが死んでしまった」という言葉の意味が、すぐに分からなかった。
「ねえ、おばちゃん。お父さんとお母さんは? おみやげは?」
泣いている近所のおばさんの服のすそを引っ張って、美有は首をかしげる。
「美有ちゃん……ごめんね、ごめんね……っ!」
おばさんは美有をぎゅっと抱きしめるだけで、何も答えてくれない。
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数日後。
美有に残されたのは、あの日、お父さんとお母さんが乗っていた車の中から見つかった、一つの小さな包みだった。
すごい事故だったのに、その包みだけは不思議と傷ひとつなかった。
美有がそっと包みを開けてみる。
中から出てきたのは、ほんのりピンク色をした、きれいな桜の形のブローチだった。
キラキラ光るガラスのブローチは、二人からの愛情みたいにあたたかく輝いていた。
「これ……おみやげ……?」
その時になって初めて、美有の目から大きな涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
もう、あの優しい声で名前を呼んでもらうことはできない。
あの大きな手で、頭をなでてもらうこともできない。
4歳の小さな胸に、お父さんとお母さんがもういないという現実が、悲しみとなって押し寄せてきた。
「う、うわあああん! お父さん! お母さんっ!」
美有は桜のブローチを小さな胸にぎゅっと抱きしめて、声を上げて泣き続けた。
窓の外では、あの日固かった桜のつぼみが、雨上がりの青空に向かって、静かに花びらを開き始めていた。
まるで、ひとりぼっちになった美有の未来を、そっと見守るかのように。




