意識が……!?
面会時間がとっくに過ぎ、病院の廊下をせわしなく行き交っていた看護師たちの足音も途絶えた。
時刻は深夜二時を回っている。
美晴をはじめ、周囲の家族は「今日中の意識回復は難しいだろう」という医師の言葉に従い、一度全員が帰宅していた。
付き添いとして残ることを特別に許された健人だけが、薄暗い個室へと移された美有のベッドの傍らで、静かに椅子に腰掛けていた。
部屋の中には、規則正しく刻まれる心電図の電子音と、美有の静かな呼吸音だけが響いている。
窓の外には、深夜の東京の街が冷たい闇の中に沈んでいた。
健人はじっと、美有の寝顔を見つめていた。
彼女の頭部には幾重にも包帯が巻かれ、点滴のチューブが痛々しくその細い腕に繋がれている。
夕方に美晴が見せてくれたあの温かい家族の空気は、今のこの部屋にはない。
あるのは、ただ静まり返った空間と、健人の胸を焦がし続ける後悔の念だけだった。
(美有……)
心の中でその名前を呼んだ、その時だった。
ピッ、ピッ、と一定だった心電図の脈拍が、わずかに不規則な音を立てた。
美有の長い睫毛が、微かにピクリと動く。
健人は思わず息を呑み、身を乗り出した。
「……ん……っ……」
小さな、掠れた声が美有の唇から漏れる。
彼女のまぶたが重そうに、ゆっくりと持ち上がっていった。
最初は焦点が定っていなかった大きな瞳が、何度か瞬きを繰り返すうちに、天井の白い明かりを捉え、そして――目の前にいる健人の姿を、真っ直ぐに映し出した。
意識が戻ったのだ。
「美有……!」
健人は思わず声をかけようとしたが、その言葉は喉の奥で止まった。
美有はしばらくの間、ぼんやりと健人の顔を見つめていたが、やがて夕暮れの路地裏での出来事を思い出したのだろう。
その瞳に、かすかな怯えと、どうしようもない気まずさがじわりと広がっていくのが分かった。
「……け、ん……と……」
酸素マスクの向こうから、消え入りそうな声が響く。
「喋るな。まだ身体が辛いはずだ。……医者を呼ぶ」
健人はナースコールを押そうと手を伸ばしたが、美有の視線がそれを制するように微かに動いた。




