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生きる意味  作者: カセージン
第四章
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緊急搬送

キィィィィィィッ!!!



激しい急ブレーキの音が街に響き渡る。



しかし、あふれる涙で周囲の音が聞こえていなかった美有は、避けることすらできなかった。



ドン、と鈍い衝撃音が響く。



「美有――!!」



健人の叫びが、夕焼けの空に虚しく響いた。



道路の中央で、小さな身体が力なく弾み、アスファルトの上へと転がっていく。



カバンから飛び出した荷物が散らばり、彼女が大切に持っていたはずの桜のブローチが、夕日に照らされて虚しく転がった。



路面に広がる赤い血の海が、まるで終わらない夕焼けのように、周囲を赤く染めていった。



「美有……っ! 美有!!」



健人はコンビニの袋を放り出し、アスファルトの上を滑り込むようにして美有の元へ駆け寄った。



トラックの運転手が青ざめた顔で車から飛び出し、周囲の歩行者たちが悲鳴を上げる。



そんな周りの喧騒は、今の健人の耳には一切届かなかった。



道路に横たわる美有の身体はピクリとも動かず、その意識は完全に失われていた。



頭部から流れる鮮血が、彼女の紺色の制服をじわじわと染めていく。



かつてあれほど温かく自分を呼んでくれた幼馴染の身体は、驚くほど冷たく、そして軽かった。



「おい、しっかりしろ! 美有!」



声をかけるが、返事はない。



浅い呼吸が微かに聞こえるだけで、いつ命の灯が消えてもおかしくない状態だった。



健人は震える手でポケットからスマートフォンを取り出した。



裏の世界の連絡以外で使うことのなかったその端末で、素早く3桁の数字を打ち込む。



「――119番です。火事ですか、救急ですか」



「救急だ。女子高生がトラックにはねられた。頭部からの出血が激しく、意識不明だ。早く来てくれ」



いつもならどんな極限状態でも冷静さを保てる健人の声が、今ばかりは激しく震えていた。



正確な場所を伝えて電話を切ると、健人は美有の手を強く握りしめた。


傷だらけの自分の手に、彼女の血がこびりついていく。



数分後、夕闇を切り裂くようにして激しいサイレンの音が近づいてきた。



到着した救急車から隊員たちが素早く飛び出し、ストレッチャーを転がして美有の元へと駆けつける。



「意識がありません! 出血多量、バイタル低下!」



「直ちに搬送する! 君、この子の関係者か!?」



隊員の一人に鋭い声で問われ、健人は息を呑んだ。



関係者――。



先ほど自分は、彼女に「誰だよアンタ」と言い放ったばかりだった。



だが、今の健人に彼女を置いて立ち去る選択肢など、どこにも存在しなかった。



「……知り合いだ。俺も乗せてくれ」



「よし、乗ってくれ!」



美有の身体が手際よくストレッチャーへと固定され、救急車の後部座席へと運び込まれる。



健人も促されるままに狭い車内へと乗り込み、ドアがけたたましい音を立てて閉められた。



再びサイレンが鳴り響き、車体が激しい加速と共に走り出す。



白く無機質な車内。



酸素マスクをつけられ、無数のコードを繋がれた美有を前にして、健人はただ座席に深く腰掛け、自分の血に染まった両手を見つめるしかなかった。


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