お好み焼き
「おい大村、ここ本当に美味いんだろうな? ハズレだったらチョコ没収だからな」
「市川、失礼なことを言うな。ここは関西の裏ルートの情報から割り出した、最高の評価を得ている超一級のお好み焼き屋だ」
三人がやってきたのは、賑やかな通りから少し外れた路地裏にある老舗のお好み焼き屋だった。
店内に入ると、香ばしいソースとマヨネーズの香りが漂ってくる。
さっきまでの死闘が嘘のような、平和で食欲をそそる空間が広がっていた。
「いらっしゃい! 奥の席へどうぞ!」
オバちゃんに案内され、三人はテーブルを囲んで座った。
「注文は俺に任せろ! ぶた玉、いか玉、ミックス、モダン焼き全部大盛りで! あと焼きそば三人前!」
市川がメニューも見ずに注文を叩きつける。
「市川、お前の胃袋はどうなっているんだ。炭水化物ばかり頼むな」
大村が冷ややかにツッコミを入れながら、手際よく取り皿と箸を配っていく。
「いいんだよ、死にかけた後は食わないとやってらんねえ! 健人もそう思うだろ?」
話をごまかされた健人は、すでにテーブルにあったおつまみのキャベツを、無表情のまま高速でもぐもぐと食べていた。
「……肉。早く肉を持ってきてくれ。身体がタンパク質を求めている」
「お前も食う気満々じゃねえか!」
やがて、目の前の熱い鉄板に豪快に生地が流し込まれた。
ジューッ! とおいしそうな音が響き、豚肉の焼ける香りが立ち上る。
市川の目が輝き、健人もじっと鉄板を見つめる。
大村も真顔のまま、コテを握りしめて焼き加減を見極めていた。
「おい、大村。ひっくり返すのやってみろよ」
「私に任せろ。正確な計算で、完璧に反転させてみせる」
大村は両手にコテを構えると、モダン焼きの下に滑り込ませ、見事なスナップで宙に浮かせた。
綺麗にクルッと回るモダン焼き。
だが、鉄板の油で滑り、予想以上に回転したお好み焼きが、市川の顔面へと飛んでいく。
「おわァッ!? 兵器が飛んできた!?」
市川はとっさに手元の取り皿をバットのように構え、空中でお好み焼きを受け止めた。
パシィン! と、ナイスキャッチの音が響く。
「よっしゃあ! 大村、お前の計算バグってんぞ!」
「……おかしいな」
大村が真顔で知らん顔をする横から、健人が無言で右手を伸ばした。
コテを使って、市川のお皿の上のモダン焼きを半分に切り分ける。
「よし。ハッキング完了だ」
「おい健人! 人の皿から勝手に取るな! しかも一番美味そうな肉がある方じゃねえか!」
「……早い者勝ちだ。戦場では一瞬の遅れが命取りになる」
健人は無表情のまま、熱々のお好み焼きを口に放り込んでもぐもぐと食べ始めた。
大村も「冷めないうちに処分しましょう」と、真顔で残りの半分を自分の皿に回収する。
「あーーーっ!! 俺のクリーンヒットの景品がまたしても!!」
市川の叫び声が店内に響く。
オバちゃんが「お兄ちゃんら、賑やかでええなあ!」
とマヨネーズを追加してくれた。
濃厚なソースの味と、くだらないやり取り。
彼らは闇に生きる殺し屋だ。
けれどこの瞬間だけは、どこにでもいる普通の男子高校生だった。
志人の瞳からも絶望の影は消え、呆れつつも温かい笑顔が浮かんでいた。
「よし、次は焼きそばだ。市川、お前の口を麺で塞いでやる」
「上等だ! どっちが早く食えるか勝負だ!」
「……俺が審判だ。フライングしたら皿を没収する」
関西の夜の中、三人のおかしな大食い勝負は、お腹がいっぱいになるまで続いていくのだった。




