ひどく甘いいちごオレ
志人が初めて、感情を剥き出しにして叫んだ。
「俺は、兄さんを殺したんだぞ! 昔、冷え切った家庭の中で俺をいつも笑わせてくれて、誰よりも俺を想ってくれていた、たった一人の兄さんを、この手で……! そんな俺が、自分の好きなように生きるなんて、許されるわけがないだろう!」
激しく怒りを露わにする志人に対し、健人は何も言わず、ただ静かに志人の隣のベンチに腰掛けた。
健んはコートのポケットから、新しいイチゴオレのパックを取り出した。
新幹線の中で散々揉めた末に、大村が横取りして飲み干したはずの、あのイチゴオレだ。
「……これを飲め」
健人はそれを、志人の膝の上にぽんと置いた。
「なんだ、これは。俺は今、そんなものを飲む気分では――」
「頭のエネルギーが切れると、考えがおかしくなる。これは大村、お前自身がいつも言っていることだ」
健人の瞳が、まっすぐに志人を見据えた。
「お前が兄さんを殺したんじゃない。俺たち三人が、仕事として相手を倒したんだ。三人一緒の責任だろ。お前一人でその罪を抱え込もうとするな」
「健人……」
「それにさあ」
市川が今度は志人の頭を、大きな手でぐしゃぐしゃと乱暴になで回した。
「兄さんは『お前の好きなように生きろ』って言ったんだろ? だったらさ、これからも俺たちと一緒に、この闇の中で悪いやつらを片付ける生活を選んだって、それもお前の『好きな自由』じゃねえか。普通の生活に戻るだけが答えだと思うなよ。あの兄ちゃんも、そこまでお前のことを縛るつもりはなかったはずだぜ」
市川の乱暴だけど温かい言葉が、志人の固く閉ざされた心を内側からゆっくりと溶かしていく。
「お前には、帰る場所があるだろ」
健人が、静かに付け加えた。
「あの地下アジトで、イチゴオレを奪い合って、くだらないことで遊ぶ、あの場所が。お前が一人で泣く必要なんてない。俺たちも、お前の背負う重さの半分を、ここで一緒に持ってやる」
志んは、膝の上のイチゴオレを見つめた。
ストローを差し込み、一口、吸い上げる。
人工的なイチゴの強烈な甘さと冷たさが、乾ききった喉を通り、震える身体の奥へと染み渡っていく。
「……ひどく、甘いな」
志人がポツリと呟いた。
その声からは、先ほどまでの刺々しさは消え失せていた。
「だろ? 俺の特等席の景品だからな!」
市川がガハハと笑い、志人の背中をパチンと叩いた。
「よし、作戦参謀の機嫌も直ったところで……腹減った! 関西の美味いもん食いに行くぞ! 健人、奢りな!」
「……なぜ俺が。今回の仕事で最も動いたのは俺だ。大村が奢るべきだ」
「おい健人、お前は新しい力に目覚めたんだから『お祝い』として奢る義務がある。大村、そう思うだろ?」
志人はいつもの落ち着いた、けれど少しだけ呆れたような口調でフッと笑った。
「まったく、お前たちは……。分かりました。ここは、仕事が成功した記念として、私がすべて奢ってあげましょう。ただし、店を選ぶ役割は俺に任せてもらうぞ」
「よっしゃあ! 美味いもんにしてくれよ!」
市川が飛び上がり、健人も無表情ながら少しだけ満足そうに頷いた。
誰もいない公園のブランコが、今度は三人の足音に見送られるように、静かに揺れを止めていた。




