志人の涙
完全に一人になった。
周囲には、崩壊したビルと、冷たくなった兄の亡骸しかない。
志人はふらふらとした足取りで、戦場から少し離れた、誰もいない小さな公園へと歩いていった。
壊れたブランコと、砂場があるだけの、薄暗い空間。
街灯の光すら届かないベンチに深く腰掛けた瞬間、志人は眼鏡を外し、両手で顔を覆った。
「う……あ…………っ」
喉の奥から、押し殺したような、けれど耐えきれない嗚咽が漏れ出した。
完璧だった大人びた態度も、冷徹な殺し屋としてのプライドも、すべてが崩れ去っていく。
「兄さん……っ、なんで、なんでこんな……っ!」
どれだけ悔やんでも、どれだけ涙を流しても、冷たくなった大村心人が目を開けることは二度とない。
『お前の好きなように生きろ』
最期に残されたその言葉が、今の志人の胸を容赦なく抉り続けていた。
兄は自分の命と引き換えに、志人に自由を差し出したのだ。
だが、自分の手で兄の命を奪ってしまった今の志人に、どうしてそんな資格があると思えるだろうか。
涙がボロボロと溢れ、指の隙間からこぼれ落ちて、乾いた地面にいくつもの黒い染みを作っていく。
冷たい夜の静寂が、泣き続ける志人をこのまま世界の底へと沈めていくかのように思えた。
誰もいない夜の公園。
壊れたブランコが、夜風に吹かれて静かに揺れていた。
――その時、静まり返った公園の砂を踏む足音が響いた。
それも、二つ。
志人はハッとして、涙に濡れた顔を上げた。
慌てて落ちていた眼鏡を拾い上げ、いつもの冷徹な表情を取り戻そうとする。
けれど、赤く腫れ上がった目と、激しく上下する肩を隠し通すことなど、到底不可能だった。




