↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きる意味  作者: カセージン
第三章
PR
33/61

心人の目的

戦いが始まってから、すでに数時間が経過していた。



壊れた街を照らす炎の赤は、今や両者の体から流れる血の色と混ざり合っている。



「はは……さすが志人だなあ。本当に、隙がない……っ」



心人は肩を大きく揺らし、吐き出す息に血を混じらせた。



全身に刻まれた志人の針による傷は数十箇所に及び、その出血量はすでに限界を超えている。



けれど、その顔には未だに、どこか楽しげな笑みが貼り付いていた。



「これで終わりだ、兄さん」



志人の眼鏡の奥の瞳は、冷たいままだった。



スーツは泥と血でボロボロになりながらも、その手元にある最後の一本の針は、寸分の狂いもなく心人の眉間を捉えている。



「あーあ、負けちゃったかあ。……でも、これでいいんだ」



心人がふっと、それまでの軽い態度を捨てた。



その顔に浮かんだのは、驚くほど穏やかで、どこか寂しげな『兄』の表情だった。



心人は懐から、血に汚れた一通の封筒を取り出し、志人の足元へ放り投げた。



「これ……今回の依頼書。本物の、ね」



志人が一瞬眉をひそめてそれを拾い上げ、中身に目を走らせる。



そこには、今回のターゲットであるはずの『大村心人』自身のサインが刻まれていた。



「……どういうことだ」



「言葉通りの意味だよ。俺が、俺自身の片付けを、お前たちの組織に依頼したんだ。……志人、お前をその『人殺しの道』から引きずり下ろすためにさ」



心人はよろめきながら、折れた電柱に背中を預けた。



「お前が暗殺組織に入ったって知ったとき、俺は絶望したよ。俺の大切な弟が、そんな暗い闇の中でしか生きられなくなるなんてさ。……だから俺は、わざとここで最悪の悪党を演じて、お前たちを誘い出した。能力でお前らの動きを封じて、そのまま連れ去って、無理矢理にでも普通の生活に戻してやるつもりだったんだ。……だけど、お前ら、強くなりすぎだよ」



別の戦場では、健人の『能力を消す力』によってすべての液体を無力化され、銃で撃ち抜かれた岡村雫が倒れていた。



そして市川の執念の刃によって重力の盾を破られた大滝魁も、大きな音を立てて沈んでいた。



二人の戦いは、すでに健人と市川の勝利で決着していたのだった。



「……馬鹿な真似を。俺を連れ戻すために、ここまでの危険な戦いを仕組んだというのか」



志人の声が、微かに震える。



「馬鹿なのは、昔からだろ?」



心人は優しく微笑んだ。



その瞳から、急速に光が失われていく。



最後の力を振り絞るように、志人をじっと見つめた。



「でも、志人……お前が俺を倒したんだ。これで、お前の組織の仕事は終わりだ。……だから、もう俺のことは気にしなくていい。これからは、お前の好きなように自由に生きろ……。誰かに命令されるな。明るい世界で……笑って、お前の生きたいように生きてくれ……」



それが、大村心人の最後の言葉だった。



がくり、と首が垂れ、関西のボスだった男の身体から、完全に命の灯火が消え去った。



静まり返る瓦礫の中で、志人はただ立ち尽くしていた。



視界が、急激に過去の記憶へと引き戻されていく。



思い出すのは、誰も手や服を血で汚していなかった、遠い昔の温かい思い出だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。