大村 心人vs大村 志人
【大村 心人vs大村 志人】
「あはは! 避けるねえ志人! だけどさ、予測できる破壊なんて、ただの退屈な机上論だろ?」
心人が狂ったように両腕を振り上げると、周囲を襲う災害の規模はさらに膨れ上がった。
ドズン、と地鳴りのような鈍い音が響き渡る。
志人の背後に立っていた5階建ての雑居ビルが、まるで砂の城のように根元からへし折れた。
圧倒的な質量のコンクリートが牙を剥き、無数の破片が弾丸のようなスピードで雨あられと降り注ぐ。
崩れ落ちる瓦礫の山は、志人の退路を完全に塞ぎ込んでいた。
「――いや、あんたの破壊には狙いがない。だから、避けるのは容易いと言っているんだ」
志人は一切の動揺を見せなかった。
襲い来る無数の瓦礫に対し、その動きは恐ろしいほど冷静だった。
計算され尽くした体術。
頭上で崩れ落ちる巨大なコンクリートの塊に対し、志人は恐れることなく飛び込み、その傾斜をすり抜けるように滑り降りる。
視線は常に兄の動きに固定され、突風が巻き起こす空気の揺らぎすらも完璧に計算していた。
心人の風の結界がほんのわずかに薄くなる『瞬間』を、正確に逆算する。
志人の袖口から、細い鋼線が結びつけられた特殊なナイフが放たれた。
キィン、と高い音を立てて空気を切り裂いた刃。
それは心人が放った強力な突風の「中心」――気圧の最も低い空白地帯を綺麗に貫通した。
ドスッ、と鋭い手応え。
ナイフは心人の肩の肉を深く抉り取っていた。
「ぐっ……! やってくれるじゃん、志人……!」
心人は肩を押さえ、ニヤリと血の混じった笑みを浮かべた。
けれど、その額には冷や汗が滲んでいる。
「これで24箇所目だ、兄さん。あんたの命のカウントダウンは、すでに始まっている」
志人の声には、怒りも哀しみも一切混じっていなかった。
ただ、冷酷な事実を伝えるだけのアナウンスのように静かだった。
冷徹な暗殺の技と、街を丸ごと巻き込む凄まじい大地震の連鎖。
肉親ゆえに互いの戦い方を知り尽くした二人の攻防は、コンマ一秒の判断ミスが即座に命の終わりを意味する、極限の削り合いへと変貌していた。
お互いの命を奪うための手数は、止まることを知らない。
崩れかけた瓦礫の街で、血の繋がった兄弟の死闘は、さらに激しさを増していくのだった。




