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覚醒
だが、健人の胸の奥で、どす黒く渦巻く「執念」がそれを許さなかった。
(違う。俺はまだ、何も成し遂げていない。あの家を、俺のすべてを奪った、あの茶髪の放火魔の女を殺すまで……ここで、こんな名もなき悪党の能力に潰されてたまるか……!)
心臓が、ドクンと大きく波打った。
体内の奥深く、5年間眠り続けていた「何か」の扉が、内側から凄まじい勢いで食い破られる。
脳の感覚が急速に研ぎ澄まされていく。
世界の景色が驚くほどはっきりと見え、迫り来る雫の「液体」の動きが、手に取るように分かった。
「これで終わりです。溶けなさい」
雫が冷酷に腕を振り下ろし、健人の頭上から、触れたもの全てを溶かす強酸の濁流が降り注ぐ。
けれど、健人は逃げなかった。
ただ、静かに右手を前へと突き出す。
「――消えろ」
パキィン、と世界がひび割れるような硬い音が響いた。
次の瞬間、健人の手を中心に、目に見えない無色の波動が全方位へと広がっていく。
ドササササッ―――!
健人の身体を溶かすはずだった強酸の濁流が、彼の数センチ手前で突如として『ただの水』へと姿を変え、無害な水しぶきとなって地面にこぼれ落ちた。
「な……っ!? 私の酸が……消えた!?」
雫は初めて眼鏡の奥の瞳を驚きに見開いた。




