敗北……?
「ちっ、連携がバラバラにされちまう!」
市川が鋭い突風を避けながら叫んだ。
大村心人の引き起こす地割れと、大滝魁の重力波、そして岡村雫が放つ酸の雨が、健人たちの足場を完璧に切り裂いていく。
このままでは三人がまとめて押し潰されるのは時間の問題だった。
「――分断されたんじゃない。こちらから分断するんだ」
大村志人が瞳を冷たく光らせ、即座に指示を飛ばした。
「市川は重力野郎を、健人は液体女を、俺は兄さんをやる。各自、一対一の状況を作れ!」
その言葉を合図に、三人はそれぞれ異なる方向へと地を蹴った。
乱戦から一転、廃墟と化した戦場は三つの死闘の舞台へと切り替わる。
「よおよお志人、兄弟喧嘩といこうじゃん!」
チャラチャラとした軽い口調とは裏腹に、大村心人が手を振るだけで突風が刃となって襲いかかる。
「相変わらず品性の欠片もない戦い方だ、兄さん。あなたのその雑な破壊衝動ごと、ここで処理する」
志人は無数のナイフを投げつけ、風の隙間を縫って兄の懐へと迫っていく。
肉親同士の、容赦のない頭脳と破壊の応酬が始まった。
一方、別の瓦礫の陰では、市川と大滝魁が向き合っていた。
「オラァ! ネズミみたいにチョロチョロ動き回りやがって!」
魁が地面を叩くと、市川の周囲の重力が一気に跳ね上がり、身体が地面にめり込む。
「くっ……重てぇなぁおい! だけどよ、重力が重くたって、刃物のスピードは落ちねえんだよ!」
市川は重力に耐えながら、驚異的な執念でナイフを振りかざし、魁の巨体へと斬り込んでいく。
そして――最も苦しい戦いに身を投じていたのは、中山健人だった。
「チェックメイトですね、東京の少年」
冷静な声とともに、岡村雫の指先から高圧の強酸の濁流が放たれた。
健人は必死に瓦礫を蹴って回避するが、雫の放つ液体は酸だけにとどまらない。
次の瞬間には粘り気のある油へと変化して健人の足元をすべらせ、さらには燃えやすい液体へと姿を変えて大きな爆発を引き起こす。
「ガハッ……!?」
爆風に激しく吹き飛ばされ、健んはコンクリートの壁に強く叩きつけられた。
完全に、負けそうだった。
黒い銃の弾丸は、雫が目の前に展開する厚い液体の壁にすべて防がれ、届かない。
全身は酸の霧で焼け、爆発の熱で服はボロボロになり、骨が悲鳴を上げる。
どれだけ体が強くても、さまざまな液体を自在に操る雫の圧倒的な力の前に、健人は完全に追い詰められていた。
地面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返す健人の視界が、血の赤に染まっていく。
(ここまで、なのか……?)
指先が震え、銃が何倍にも重く感じられる。
完全に限界だった。意識がそのまま闇に落ちかけていく。




