関西の殺し屋
地下アジトの作戦室に、再び三人の殺し屋が集まっていた。
いつもなら淡々と仕事をこなす彼らだったが、今回の空気は少し違っていた。
大村が机の上に広げた資料には、日本地図の西側が不穏な赤色で大きく囲まれている。
「上層部からの緊急要請だ」
大村の口から語られた言葉に、市川が鋭く眉をひそめる。
「今回の任務は、関西の殺し屋の片付けだ。あちらの裏社会の組織がでかくなりすぎて、関係のない一般市民まで巻き込む大規模な揉め事を始めた。これ以上の暴走は、俺たちの掲げる『正義』に反する。だから、根こそぎ消す」
大村の言葉に、健人は静かに頷いた。
「ターゲットがどれだけいようが関係ない。俺たちのルールに従って、全てを処分するだけだ」
「話が早くて助かるよ、健人。すでに移動の手配は済ませてある。今から東海道新幹線に乗り、関西へ向かうぞ」
こうして、三人の殺し屋は、西の戦地へと向かうことになった。
数時間後、東京発の新幹線、のぞみ号の車内。
誰もが恐れる一級の殺し屋三人衆は、三人掛けの座席に並んで窮屈そうに座っていた。
「おい、大村。なんでお前が窓際の席なんだよ。新幹線の窓際は、仕事前にイチゴオレを飲む特等席って決まってんだろ」
通路側の席に追いやられた市川が、ブツブツと文句を言う。
ちなみに真ん中の席には、健人が無表情で挟まれていた。
「市川、お前が窓際に座れば、富士山が見えるたびに騒ぐのは目に見えているぞ」
大村はいつも通りの落ち着いた口調で、かなりワガママな主張をしていた。
その手には、新幹線の車内販売で買える、スプーンが折れるほど硬いことで有名なあのアイスクリームが握られている。
「大村、お前また自分だけ甘いものを……。健人、お前からも何か言ってやれ。あ、お前は何食ってんだ?」
市川に話しかけられた健人は、無言で膝の上の袋から「それ」を取り出した。
カサリ、と音がして現れたのは、野球場で売っているような、小さなヘルメットの形をした容器に入ったフライドポテトだった。
「……これから関西の敵を倒すための準備だ」
「お前はなんで新幹線の中で野球場のごはん食ってんだよ! 野球少年の未練が変な形で出ちゃってんだろ!」
市川のツッコミを完全に無視して、健人は無表情でポテトを一本、口に放り込む。
そして、大村のすごく硬いアイスにじっと目を向けた。
「大村。そのアイスはとても硬いと聞く。指の力を鍛えるのに良さそうだな」
「待て、健人。これに爪を立てるな。これは私の個人のおやつだ」
「……いや、これは俺たちのトレーニングだ。市川、大村の右腕を押さえろ」
「よっしゃ任せろ! 大村、その高級アイスをここで溶かしてやるぜ!」
「やめろ、市川、健人。車内で戦いを始めるな。アイスの表面にヒビが入るだろう」
三人掛けの座席で、超一流の殺し屋たちが、傍から見れば完全に男子高校生、大学生のじゃれ合いを繰り広げる。
健人が無表情のまま大村の手首を押さえ、市川がポテトを大村の口に無理やり入れようとした、その時――。
「――お客様、車内での激しい動きはお控えください」
通りかかった乗務員の女性に引きつった笑顔で注意され、三人は一瞬で固まった。
「……失礼しました。友人が、ポテトの塩分について話し合っていただけです」
大村がすぐに、あの完璧に大人びた口調で言い訳をする。
健人と市川も、何事もなかったかのようにすんと前を向いて座り直した。
新幹線は、三人の騒がしい日常を乗せたまま、ものすごいスピードで西へと突き進んでいくのだった。




