↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きる意味  作者: カセージン
第三章
PR
20/61

彼がいない世界

あの日から5年の歳月が流れた。



時の流れは残酷なほどに街の景色を書き換え、人々の記憶を薄れさせていく。



かつて世間を騒がせた放火事件も、今やネットの奥底に沈んだ過去の出来事に過ぎない。



けれど――その事件によって運命を壊された二人にとっては、一瞬たりとも止まることのない、過酷な日々の連続だった。



花山美有(はなやまみう)は、15歳の高校1年生になっていた。



桜の花びらがハラハラと舞い散る春の季節。



彼女は真新しい紺色の制服に身を包み、ごく普通の高校生活を送っている。



「おーい、美有?」



昼休みの賑やかな教室。



机の前にやってきた友人が、美有の顔の前で手を振った。



美有はハッと我に返り、慌てて手元のノートを閉じる。



「あ、ごめん! ちょっと次の時間の予習を考えてただけ、だよ?」



「もー、相変わらず真面目なんだから。でも、あんまり根を詰めすぎると頭がパンクしちゃうよ?」



友人がケラケラと笑いながら離れていくのを見送り、美有は小さくため息をついた。



……嘘だ。予習なんて、一文字も頭に入っていなかった。



美有が考えていたのは、あの日からずっと、自分の心の一番深い場所に居座り続けている、一人の少年のこと。



中山健人(なかやまけんと)――。



5年前のあの最悪な夜、火災のドサクサに紛れて姿を消し、警察がどれだけ捜しても見つかっていない、大切な幼馴染。



美有は制服のポケットにそっと手を入れ、そこにしまってある小さな箱に触れた。



中にあるのは、光の角度によって綺麗に輝く、ガラス製の桜のブローチだ。



4歳のとき、両親を事故で亡くした美有に残された、世界で一番大切な形見。



そして――あの日、健人がぶっきらぼうに拾ってくれた、大切な絆の証。



(健人、今どこで何をしてるの……? ちゃんとご飯、食べてる?)



毎日、学校へ行き、授業を受け、友達と笑い合う。



そんな眩しいくらいの「日常」を送りながらも、美有の心の半分は常に、行方の分からない健人の存在に囚われていた。



彼がいない世界は、どこか色褪せて見える。



どれだけ新しい環境になろうとも、胸の奥にぽっかりと空いた穴が埋まることはない。



それでも、彼がいつかフラッと帰ってきたときに「お前、全然変わってないな」って呆れられないように。



美有は健人の面影を胸に抱きながら、懸命に今日という日を生き続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。