殺しの道へ
大村の言葉は、10歳の少年に向けるにはあまりにも残酷だった。
けれど同時に、今の健人にとっては唯一の救いの一手でもあった。
「俺たちのところに来れば、人を殺す技術のすべてを教えてやる。法律が裁かないゴミ屑を処分しながら、お前が追う『あの女』の情報にアクセスする力も手に入る。……どうする?」
暗闇の中で静かに投げかけられた問いかけ。
健人の頭の中で、昼間の平和な光景が走馬灯のように駆け巡った。
グラウンドに響く金属バットの気持ちいい音。
夕暮れの公園の匂い。
そして、自分を真っ直ぐに見つめて褒めてくれた幼馴染の少女――花山美有の優しい笑顔。
(美有……)
一瞬だけ、その名前が胸の奥をかすめた。
だが次の瞬間、激しい炎の熱とともに、焼け焦げてしまった家族の姿が思い浮かぶ。
そして、あざ笑う茶髪の女の顔が、美有の笑顔を真っ黒に塗りつぶした。
もう戻れない。
今の自分は、もう野球少年の中山健人ではないのだ。
正義も、法律も、子どもらしい未来も、すべてあの炎の中に置いてきた。
美有のいる明るい世界には、もう自分は居ちゃいけない。
「……行く」
健人は振り絞るような声で答え、大村の服を力任せに掴み返した。
そして、血の混じった不気味な笑みを浮かべる。
「その技術ってやつを、俺に教えろ。あの女を、八つ裂きにできる力を……俺にくれ」
大村は満足そうに、微かに口元を緩めた。
そして、自分よりはるかに小さい健人の身体を、ガッチリと支えるようにして立ち上がらせた。
「後悔はないな? 今日からお前は、俺たちの世界の人間だ」
「ああ……後悔なんて、最初からないさ……」
市川もまた、静かにナイフを収め、健人の反対側の腕を肩に担いだ。
こうして、中山健人はわずか10歳にして、闇に生きる暗殺組織の門を叩くこととなった。
普通の世界を捨て、復讐のためだけに生きる悪魔として。
『殺し』道を、健人は一歩、踏み出したのだった。




