死闘のゆくえ
健人は、本来であればただの10歳の小学生に過ぎない。
しかし、現在の彼は『東京少年野球団』の絶対的エースであり、天才的な身体能力を持っていた。
それに加え、家族を殺されたことによる無限の憎悪が、彼の肉体の限界を完全に解き放っていた。
野獣のような素早さと、予測できない軌道から繰り出される打撃が、大村と市川を襲う。
対する大村志人と市川太郎の二人もまた、決して普通の人間ではなかった。
彼らは若くして、裏の世界でその名を馳せる「殺し屋」だったのだ。
日々、命のやり取りを潜り抜けてきた彼らの体術と銃捌きは、中学生の領域を遥かに超えている。
大村が銃撃で健人の動きを牽制し、その隙を突いて市川が鋭いナイフの連撃を繰り出す。
市川の刃が健人の汚れたシャツを切り裂き、赤い血が闇に舞った。
けれど、健人は肉が裂ける痛みなど気にせず、市川の腕を掴んで強引に引き寄せると、そのまま頭突きを叩き込んだ。
ゴン、と鈍い音が響き、市川がわずかに体勢を崩す。
そこへ健人の容赦ない回し蹴りが襲いかかった。
市川は間一髪で腕を交差させてガードしたものの、その凄まじい衝撃に数メートルほど後ろへ下げられた。
「くっ……何という馬鹿力だ……!」
市川が初めて、その冷静な声に焦りをにじませた。
「市川、下がれ!」
大村がすかさずカバーに入り、健人の足元を狙って容赦なく銃弾を放つ。
健人は地面を転がりながらそれをかわし、転がった勢いのまま大村の死角へと回り込んで、泥だらけの拳を突き出した。
大村はそれを腕で受け流すが、健人の拳の重さに、わずかに顔をしかめた。
「信じられないな……。ただの素人のガキが、俺たちの連携を相手にこれほど立ち回るとは。一体どんな地獄をくぐり抜ければ、これほどまでの殺意を持てるようになる」
大村の口調は、戦闘の最中にあっても崩れない。
チンピラのような汚い言葉遣いは一切せず、どこまでも理知的で、冷酷なトーンを維持している。
闘いは、完全に泥沼の長期戦へと突入していた。
健人の攻撃は洗練されてはいないが、圧倒的なパワーと、死を恐れない狂気的な突進力がある。
一方で、大村と市川のコンビは、無駄のない洗練された暗殺術と、冷徹なチームワークでそれを確実に迎撃していく。
どちらか一方が圧倒することのない、奇妙なほどに均衡した死闘が続いていた。




