銃を恐れぬ少年
「おっと、話が通じる相手ではないらしい。市川、少し黙らせるぞ」
大村と呼ばれた少年は、健人の拳が鼻先に迫るその瞬間まで表情を一つも変えなかった。
彼は最小限の動きで頭をわずかに傾け、健人の渾身の一撃を紙一重でかわす。
同時に、持っていた銃の銃口を健人の胸元へと突きつけた。
普通の人間にしてみれば、銃口を向けられた時点で身体が竦むものだ。
しかし、健人は怯むどころか、その銃口を左手で強引に掴み、軌道を上へと逸らした。
パァン――――ッ!!
夜の静寂を切り裂く、鋭い破裂音が路地裏に響き渡る。
放たれた弾丸は健人の耳元をかすめ、背後のコンクリート壁に火花を散らして着弾した。
「ほう……銃を恐れないか。ただの子供ではないな」
大村の隣に控えていたもう一人の少年、市川太郎が、初めて少しだけ目を見開いた。
市川もまた、中学生とは思えないほど落ち着いた、どこか冷徹なトーンで呟く。
「大村、油断するな。このガキ、目が完全に据わっている。ただの迷子じゃない」
「分かっている、市川。だが、ここで俺たちが遅れをとるわけにはいかない」
大村は銃を握り直すと、健人の懐に鋭い前蹴りを叩き込んだ。
ドカッ、と重い音がして、健人の身体が後方へと弾け飛ぶ。
しかし、健人は地面に背中をつく直前で信じられないような反射神経を見せ、片手を地面について一回転し、すぐに戦闘態勢へと戻った。
「ハァ、ハァ……!」
健人の荒い呼吸が、夜の冷気に白く混ざる。
足首の激痛など、すでに怒りの熱さで完全に吹き飛んでいた。
ここから、夜の暗い路地裏を舞台にした、壮絶な死闘が幕を開けた。




