ハローライセ/異世界転生安定所2
【転生相談窓口 3番】
「は~~い、お名前は~~?」
相談員である、筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》の赤鬼のオジサンに聞かれる。
「あ、後藤一永って言います。死んだ年は36才です……」
「オッケー、トモちゃんねっ。あたしは長谷川一期。イチゴちゃんか、ストロベリーって呼んでねっ」
パチリ☆
赤鬼のオジサンに、お姉言葉で、ウインクされた。
じぃぃ……
他の鬼はみんな、ちゃんとスーツを着てるのに、なぜかこの赤鬼だけ、上半身裸だった。
(う~む。これは、鬼としてのアイデンティティを大切にしている、タイプなのかな?)
だとしたら、きっと下半身は、トラ柄のパンツを履いているに違いない。
(せっかくだから、本物志向の鬼の姿を見ておこう……)
そぉぉ……
興味を覚えて、相談カウンターの下を、そっと覗き込む……
…………赤鬼が履いていたのは、蛍光ピンクのマイクロビキニ・パンツだった。
しかも、もの凄く、ピッチピッチのもっこり。
……どうも、鬼としてのアイデンティティは、関係ないらしい。
「あら? これにしたのね? [外れスキルあり(笑)]だけど、トモちゃん大丈夫?」
トントン
長谷川さんが、太い指で、転生票の一点を指差した。
「へ?」
俺は転生票を、覗きこむ――
――確かに、隅っこに小さく、[外れスキルあり(笑)]と書いてあった。
「……外れスキルって、どんなのですか?」
(笑)の表記に、軽くイラッとしつつ、聞く。
別にダンジョンに潜るわけじゃないのだから、スキルなんてどうでもいいが……
「ええとね……」
パラパラパラ……
長谷川さんが、机のファイルを捲る。
「ええと、なになに……。えー、[NGワードを口にすると、鼻毛が伸びる]だってさ」
「は? 鼻毛?」
「うん。悪役公爵令嬢の鼻毛。無駄に、無限に、果てしなく伸びるんだってさ」
「えと……それって、スキルですか?」
「さあ? 外れであることは、確かよねぇ」
「ですね。NGワードは、なんですか?」
「それは分からないわよぅ。分かったら、ゲームにならないじゃない?」
「いや、そもそも、転生はゲームじゃないですよ?」
この赤鬼は、人の人生を、なんだと思っているんだ?
「ええと……何でも、転生した際に、ランダムでNGワードが決定するんだってさ」
長谷川さんが、ファイルで確認する。
「NGワードは、異世界では使われない単語が、殆どみたいよ? 大体、王子様の前で、そのNGワードを言わなければいいだけだから、楽勝じゃない?」
「う~~ん……」
「どうする? 他のにする?」
長谷川さんが、頬杖をついて、聞く。
(他にする? って聞かれても、もう悪役令嬢は、これしか残ってないんだよなぁ……)
「……これで良いです。これに決めますっ」
「は~~い、了解っ☆」
長谷川さんが、パチリとウインクした。
ポンッ ポンッ
そして景気よく、転生票にハンコを押す。
パチンッ
さらに、転生票に何かの書類を添えて、ホッチキスで一まとめにした。
「じゃあ、この書類と、コッチのカードを持って、4番の転生部屋に行ってねっ」
渡されたのは書類と、[転生部屋4番]と書かれたカードだった。
「それじゃあ……」
軽く会釈をしつつ、立ち上がる。
「は~いっ。頑張ってねぇ~~」
長谷川さんの声に見送られ、俺は窓口を後にする。
コツコツコツ……
転生安定所館内の、案内看板を見つつ、転生部屋を目指す。
「――ここか」
大きく[転生部屋4番]と書かれたドアを見つけた。
ガチャ ギキィィーー……
ドアを開ける――
と、中は真っ白な靄が立ち込めていた。
「いよいよか……」
これから新しい人生が始まると思うと、軽い躊躇を覚えた。
コツコツコツ
――が、俺は意を決めて、足を踏み入れる。
ふっ……
するとすぐに、意識を失った。
こうして俺は、悪役令嬢に転生したのだ……
――――――――
――――
―
【公爵邸】
「「「王立魔法学園ご入学、おめでとうございますっ、アレリーナ様っ」」」
使用人たちが、一斉に首を垂れる。
「「「どうかお気をつけて、いってらっしゃいませっ」」」
そう声を揃える使用人たちの顔には、安堵の表情が浮かんでいた。
(ふんっ。なにをホッとした顔をしてるのよっ! 生意気な使用人たちだわっ)
トン トン トン
屋敷の大階段を下りながら、内心で思う。
(わたくしがこの屋敷から出て、王立魔法学園の寄宿舎に入るのが、そんなに嬉しいのかしらっ)
一方、わたくしに付いて寄宿舎で世話係をする使用人は、項垂れている。
(腹の立つ態度ねっ。ホントにっ)
私は主として当たり前の対応をしているのに、横暴だの、わがままだと、使用人たちが陰口を叩いているのを、知っている。
トン トン トン
(誰のお蔭で、生活出来ていると思っているのっ!? たくっ、これだから、下賎の者は――)
腹立たしさに、乱暴に大階段を下りる。 と――
つるりっ
「はうんっ!?」
階段を踏み外した。
ずだだーーんっ ゴロンゴロンっ どんっ ばんっ ぼばばんっ
一気に大階段から滑り落ち、玄関前のホールまで転がる。 そして――
ごちんっ!!
「馬っふんだはっ!?」
床で頭を強打した。
「きゃあぁあぁぁーーっ、アレリーナ様がっーー」
「うわわあぁあああぁぁーー、大変だぁーー」
使用人たちが騒ぐ。
ぐるんぐるん ぐるんぐるん ぐるんぐるんるん
意識が薄れ、目が回る。
(あぁ、わたくしはこのまま、死ぬのかしら……)
死別の一声として[馬っふんだはっ]を言い残して……
と――
ギュピピーーーーン!!
その時、脳の中を、一筋の閃光が走ったっ!!
ギュギュギュンンンーーーー!!
猛烈なスピードで脳内に蘇る、前世の記憶っ! 記憶っ! 記憶っ! 記憶っ!
(ああっ!? 思い出したっ!? 俺っ、公爵令嬢に転生したんだっけっ!?)
死んだおっさんの意識[後藤一永36才]が、蘇った。
「あぁ、大丈夫でございますかっ、アレリーナ様っ」
「なんと御労しいっ!? あぁあぁ、なんてことでしょう!?」
数人の使用人が、悲壮な声で、床に仰向けで横たわるアレリーナを介抱する。
「――どうしよう。あたしたち、折檻されるかも――」
「――いっそ、死んでくれれば、いいのに――」
介抱をする使用人の後ろで、他の使用人たちが、ひそひそ話をしているのが聞こえた。
(凄い言われようだが、アレリーナって、そんなに酷いヤツだったっけ?)
改めて、これまでのアレリーナの行動を思い返してみる。
ギュギュギュンンンーーーー!!
猛烈なスピードで脳内に蘇る、アレリーナの記憶っ! 記憶っ! 記憶っ!
(うわあぁあぁぁあぁっ!? こいつ、超・悪役令嬢っ!! どんだけ好き勝手に生きてきたんだよっ!!)
蘇った記憶は、もうドン引きだった。
(わがままどころか、なんかちょっと描写出来ないような、エッチな折檻までしてるぞっ!? この公爵令嬢様はっ!)
これ、18禁の悪役令嬢ものだったのか!?
(あ。……ちょっとだけ、興奮するかも……)
蘇った記憶は、おっさん的にちょっと良かった。
いや、ちょっとだけだよ?
(とっ、とにかくっ! このままいったらヤバいぞっ! この超・嫌われ者のアレリーナだと、婚約破棄は確実だぞっ!)
婚約破棄されたら、転生は失敗だ。
(急いで、なんとかしなきゃっ! 急いでっ!)
――こうしてアレリーナの、脱・悪役令嬢活動――脱・悪活が始まった――
【現代ラブコメ・ファンタジーを書いてますっ】
【イタ☆恋!】新・江の島縁起
〜なぜかイタリア出身の怪人として戦うことになった僕は、魔法少女に恋をした〜
☆現代コメディ・ファンタジー☆
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