第5話 変わっていた兄
「ただいま〜」
と、私がその言葉を発しても、誰も返してくれなかった。家の玄関を閉まって、靴を脱いで、居間のところに行ったらそこでは屍に戻った兄がいる。
「またか、はああ」
確かに兄の死体からは匂わないけれども、死体が適当にうちの居間で転がっていたら、私も迷惑なんだ。警察が来たらと想像するだけで鳥肌が立った。
私は兄の死体を正座ポーズにしてから台所へと行く。今日は自分で料理を作らないといけないっぽい。
唐揚げのメニューで夕食を作っていた自分、そして兄に頼まれて野菜を買うようにと言われているにもかかわらず、料理の肝心なところでまだ復活していない兄。
何やら嫌な気がする。
自分が米を炊くところに、後方から声をかけられた。
「よ、シズク、野菜はもう洗ったか?」
つい先まで居間にいた兄の屍だった。
「い、いえ……まだだけど」
「何度も言ったろ、野菜もきちんと料理して、食べろって」
兄、正しくは兄の生きている屍がそう言って、私は内心で安堵した。
良かった、まだ生きていて。
一年前に起きたのを想起して、私は今の人生でとても安らぎを感じられた。
それは本当に一瞬だった。ストーカーに殺されそうになり、兄が助けてくれなければ私は死んだのかもしれない。
ただし、その代償に落命したのは兄の方だった。
もう、そのような日が来ないと良いと心から悲願した。
◇◇◇
妹の様子からおかしいところはない気がする。
俺は妹が食べる用の野菜料理を作って、食卓テーブルに置く。
「お兄は食べないの?」
「何度も言ったろ、俺はもう死んだ。だからもう食えないし、舌に味見などできない、脈もないし」
そう、俺は動く屍だ。向こうの世界で例えるなら、アンデッドという悪魔の一種らしい。
「お兄は変わったね」
「それはもちろん、俺はもう死んだんだからな」
「なんか『もう死んだ死んだ』って言って、食事の味がしないんだけど」
「まぁ、あれだ…わるい、ごめんな」
確かに、この話をされたら、飯の味がだいぶ不味くなるだろう。故に俺はこの話を止める事にした。俺が料理した後に出来ることは殆ど無いし、暫く居間の所に行って、
「もう時間なの、お兄?」
「嫌、テレビでも付けたいと思って」
「そう、でもテレビを見れるのは今月で終わるんだから、忘れないでね」
「あぁ、知ってる。というか、おば様はまだ払ってもらわなかったの?」
俺がついつい様を付けたら、妹のシズクは眉間のシワを寄る。
「様?お兄、なんか変わってるよ。本当に」
「え、そうなのか?まぁ、あれだ、おばさんにはまだ払ってもらわなかったのか?」
「まだだよ、後で請求書を届けに行くから」
最後に「そうか」言い残し、俺は台所で妹を一人にした。テレビを見るのはもちろん、ただの見せかけだ。俺はテレビをつけて、見ずに妹の部屋を調査する。
シズクの部屋は居間の間にある。故に調査しやすい。
俺は部屋の電気をつけて、整った部屋を見る。特に変な所はないかぁ?
まぁ、とりあえず妹のメモを見てみよう。
『お兄は死んだ、これからどうすれば良いの?おばちゃんと一緒に住むのは嫌だ。気持ち悪い、でもまだ中学生だし、保護者は必要。どうしよう』
と思わずシズクの昔の日記を見つけてしまった。
日程を読み取れば、確かに一年前くらいの日記だ。
俺は妹の日記を一つずつ読んで、ますます未練というものを感じてしまった。
でも、本調査の目標はこれでは無い。俺は一年前の日記を閉じて、出来るだけ今年の日記らしきものを探す。
『最近は兄が帰ってきた。どういうわけか全く知らない』
これは俺がこの世界に戻った時の日記だ。多分、このページから捲って、調べられる。
「お兄、何やってるの?」
「え?」
突然背後からシズクが現れて、すぐに俺が持っている日記を奪った。シズクは苦笑していた。
「お兄、もう一度聞くね。何で私の日記を読んでるの?」




