第2話二つの世界やそこでの生活
「おーい、シズク、起きなさい…じゃなくて、起きろ!」
俺は富岡俊輔、この家庭で唯一の一男にして、家を継ぐものである。
もっともこの生活にしたのは妹を産ませてから間もない死んでしまった両親にあるからだ。
そして、妹を階段から呼んでも、中々返事は無い故、俺はストーブの火を消して、上の階にある妹の部屋を訪問する事にした。
あの子の部屋の扉の前に、俺はトントンとノックした。
「シズク、起きろってば!中でゴロゴロすんな、今はもう朝だぞ。月曜日だぞ!」
俺がそう口うるさく扉の反応を待った。嫌、待てない。
何度も叩いても、扉の向こうからは何の反応もなかった。むしろ静寂過ぎる。
瞬時に心中が曇った俺は我慢できず、扉を無理矢理開ける。
「痛っ!」
「あっ、起きてたのか」
どうやら黒髪短髪の妹は扉で額に当たったらしい。
「お兄、そこを退いて」
「あ…うん」
可哀想におでこを撫でる妹に、俺は叱責するのをやめた。
◇◇◇
「シズク、野菜も食べなさい」
俺は朝っぱらから言葉うるさくして、妹に野菜を食うように指摘する。
シズクは嫌そうな顔を浮かべるが、それは私…俺の心を揺さぶれなかった。
「野菜をきちんと食べるんだぞ。俺が居なくなったら、生活はどうする?」
「お兄、うるしゃい…もぐもぐ」
野菜が食わないのに対して、シズクはパンが大好きだ。同じくパン好きとして喜々とした話ではあるが、栄養バランスがちゃんと取れてない。故に今でも食べさせようとしている。
俺はピーマンやサラダがのってあるお皿をシズクの前に運んで、じゃんじゃんと食べさせる。
「お兄、これさっきはもう食べたよ」
「最後まで食うんだぞ。サラダ一菜だけじゃなく、もっとだ」
「ぐえっ…」
何やら吐き出そうと見えるが、私は…俺はシズクのためならば、何でもする。
例え、死後の世界から無理やり出ようとも。
◇◇◇
「じゃ、お兄、行ってくるね」
「あぁ、気をつけろな」
登校する妹がその挨拶を交わし、俺はエプロン姿のままシズクを見送る。
あの子の姿が完全に視界から消えるまで、俺はずっと見守った。
無論、どこか虚しさがあると思う。
見届けた俺は再び玄関の扉を閉めて、居間へと向かった。そこにはいくつか置かれた遺影がある。両親の顔が写っている遺影と……俺の遺影だ。
これは悪ふざけとか、そういうものではない。実際、一年前までは俺はこの世界に命を持っている一人の人間だからだ。
俺は自分の遺影、そして両親の遺影の埃をハンカチで吹く。
今の俺はもはや人間ではない故、埃まみれであっても体には影響はない。
そして、掃除する際にあるチャイムの声が鳴った。その声はいつものルーティンの証で、あっちの世界で目覚める時間なのかもしれない。
俺にはもはや選択肢は残されていない。故に、この奇跡に対して、天に感謝の言葉を捧げるのみ。
キンコンカンコンとチャイムとうるさくなる。
俺は適当の場所で横になって、目を瞑って
◇◇◇
「お嬢様、起きる時間ですよ」
「…う、ううっ……」
瞼を開く瞬間に、強い光が遮られず、カーテンから朝の陽光に浴びられた。とても暖かく、健康にいいものだ。
私は上体を起こし、青髪に使用人の制服を纏う女の前に目覚ました。
「あのお、お嬢様。胸を閉まってください。色々見えてますよ」
「あ……うん、はい」
俺……嫌、私はすぐに胸当たりのボタンを閉める。やはり、男の体から女の体に意識を転送される時は、こういうのが習慣化できない。私は全身を起こし、自分が寝ていた寝台を自分で片付ける。正に自分のケツは自分で吹くってやつだ。
「相変わらず、凄いのですね」
「いいえ、そうでもありませんわ」
私は傍にいるリムに微笑んで、自分の趣味を凄いとか、そう間に受けたくない。
これは前世からの習慣で、この世界に生まれ変わって、単純に持ち合わせただけだ。故にすごいでも何でもない。
「今何時なのかしら?」
「五時半でございます、お嬢様」
「そう、早く仕度したいので、直ぐに手伝えるかしら?」
「はい!」
こうして、私はリムに仕度を手伝ってもらいながら、学校に登校する事にした。




