第1話私はアンジェリカ・ビン・カワリズミと申しますわ
「御機嫌よう」
「ご機嫌よう、アンジェリカ様。今日もお美しいですわね」
「ありがとうございます」
私、アンジェリカ・ビン・カワリズミ。このカワリズミ王国の第一女にして、王都の北部区域にある学園の女学生でもある。
周囲にちやほや褒められて、私は自分の長髪の金髪を撫でて、周囲の人を微笑みながらその挨拶を返す。
手にはバッグ、そして白い制服の姿を纏うのは一般的な女性制服。この魔法学園―――アル・ハイゼン校は貴族向けの学院で、魔法以外にも様々な分野を習得できる。
庶民が入学不可という訳ではないのだが、一応それなりの保証人が必須とされる。
「ねえ、アンジェリカお嬢様、この後、ランチは一緒にいかがですか?私、お嬢様が好きそうなサンドウィッチ、持って行きますので!」
突然の誘いに私は戸惑った。サンドウィッチ、確かに大好物なのだが――、
「下がれ!そのような穢れた物はお嬢様の前に持ち出すな。穢らわしい貴族どもめ」と性格が悪い男性護衛が私をその令嬢から切り離そうとしている。
もちろん、相手が悪い訳ではない。純粋な誘いにはなんたる暴言かしら。
「ロバニ、そこまでよ。相手が可哀想じゃないかしら」
その令嬢が完全に視界から消える前に、私は自分より背が高い男性護衛の肩を叩いて、軽い叱責をした。
私は挨拶する群れから離れ、先程酷い目にあった女学生に寄った。
そして、予想通り、相手は密かに泣き出していた。
「ねえ、そこの貴女、大丈夫かしら?」
「しくしく……へ?」
「先程の私の護衛、御免なさいね。彼は周囲を警戒しすぎて、貴女のお誘いを酷く断ったのですね。彼の代わりに謝罪するわ」
私は一度頭を下げて、相手に深い敬意を示しながら謝罪する。もちろん、これは演技ではなく、私の本音がこうして謝罪したかったから、相手の手をとって、接吻する。
「ふへ!?」
驚愕した女学生をよそに、私は謝罪に必要な礼儀作法を行った。別に気持ち悪いとかは思わないし、ここまでだけなら私の本能にも逆らっていない。
故に安全ラインにあるというわけだ。
「では、また今度お会いしましょうね」
私はその手を離して、赤らめた顔になった女学生をこれ以上見ないようにする。だって、これ以上気にかけたら、相手は恥で死にそうくらい顔を赤らめた。
だから、その前に私はいち早く場所を変えてみる。
◇◇◇
「よろしいのですか?」
「何がです?」
はて、授業後に突然寄ってきていた男性護衛――――ロバニは小声で囁いて、私に話しかける。
挙げられた話題に知らないふりをするのだが、すぐに悟られるかのようにロバニは「茶化さないで下さい」と突っ込む。
「何を茶化すのですか?私、そんなに変なことを言ったのかしら?」
「今朝の子ですよ、全く。お嬢様ったら」
額を添えるロバニは呆れる態度を示す。
「あら、そうでしたか。別にいいんじゃないかしら?貴族階級は確かに私よりも低いのですが、それで仲間外れの理由にはなれません。決して―――」
「だとしてもですよ!」
「口を慎みなさい、ロバニ」
「ひぃっっ!」
私は手作業を止めて、ロバニを一瞥すらせず、叱責する。どうやら、これくらいで私が怒っていることを理解してくれるようだ。
ロバニは直ちに跪き、私の警告に恐れているようだ。
まあ、その気持ちはわからないでもない。実際、私も前世では似たような情も持ち合わせたから。―――いや、今でもそうなのかもしれない。
唯一この世界に来てから習慣化できないのは、この体だ。私は前世で死を迎えて、何故か女に転生してしまった。新しい感覚でもあるが、どうしても慣れない。何故なら ―――
◇◇◇
「では、おやすみなさいませ。」
闇色に包まれて、私はカンテラを持っている使用人リムにこの日の最後の挨拶をしていた。
私はピンク色のパジャマに着替え、寝台の上に横になっている。一瞬、なぜ自分がこの体でまだ人生を歩めないのは前世で未練が存在したからだ。
故に、この体で生きていくには到底馴染めないのだ。
私は毛布で身をつつみ、瞼を瞑って、段々と意識があっちの世界へ―――
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