第13話 無能なソリハ
女―――魔法ができぬ女。
日々送っている生活は魔術実践授業で必ず零点を取る。
女は魔法使いになりたかったにも関わらず、自ら魔法が駆使できない。
どうして自分は生きているのか、どうして魔法使いになりたいのか、もうとっくに記憶をなくした。
だが、女にははっきりと思い当がある。なぜ自分が魔法ができないと―――女には魔力を持たないからだ。
理不尽な現実を思いつつ、心中やお腹が吐き気を感じるくらいに。
しかし女は諦めたくもない。諦めが悪い―――頑固な女は閑静な廊下を通り抜け、手に長い杖を抱える。女はアル・ハイゼン魔法学園の一年生。女は校舎の裏に向けて、一人で魔法の練習を始めた。
「―――その炎で焼き尽くせ!」
魔導書で書かれる呪文を唱えても、やはり全身から魔力は流れてこない。
何も感じない。
「やっぱり、できないよね」
女は息を漏らして、校舎の草の地面に倒れていた。
(わたしには魔法の才能があったらなー)
「おい、聞いたか、アンジェリカ様はそろそろ上級魔法に挑んでいるらしいぞ!」
ぼんやりしている最中、女は耳に入れた。
アンジェリカ・ビン・カワリズミ。学園の優秀な生徒にして、国の王女様でもある。
彼女とは無縁の存在だ。かけ離れている世界で生きている存在。女が王女様の話を聞いたところで、心中に強い嫉妬を感じさせるのみ。
「あら、ソリハちゃ〜ん。また魔法の練習をしたのかしら?」
唐突、女――ソリハは呼ばれた。
ソリハは直ぐに立ち直って、声の由来を確認する。貴族令嬢の女だ。それも二人。
シルガー家の銀髪令嬢と、スミス家の茶髪令嬢。
(何でこの二人がまた来てしまうの?)
鼻を鳴らす貴族の前にソリハは顔を俯かせる。
「可哀想な子だね〜」
「よくもまあ、この学園に入れたものですわね」
二人の令嬢は扇子で口を隠せて、ゲラゲラとソリハを笑う。
一瞬、ソリハには腹痛が生じる。
「か、返す言葉もございません」
シルガー家の令嬢は扇子を閉じて、腕を組んでいる。
「そういえば、この前の宿題何ですけれども…あれ、わざとでやってるのかい?」
「え、えっと…しゅ、宿題?なんの話で――」
――!!
ソリハが言葉を終える前、ソリハの頬っぺたは叩かれた。
「…へ?」
「惚けるつもり!?わたくしたちの宿題のことよ!」
―――?
シルガー家の令嬢は自分の荷物からある手帳を出して、ソリハに投げる。ソリハが手帳を確認して、零点の大きなマークがあった。
それは地理学の宿題だった。
読んでいるソリハは目を細めて、全身が震える。なぜなら怒り爆散の原因を良くわかってるからだ。
「い、いえ、わ、わたしは地理学が苦手で…」
「はぁ?苦手ですって!?あなた、苦手な物は多すぎるのよ!これだから平民には」
「あらら、やり過ぎなのよ。ウィスキー。気持ちは分かります、ただ―――」
どうやらシルガー家の令嬢の名前はウィスキーらしい。茶髪の令嬢は髪を弄りながら、瞳を細めて「この場所じゃあれなので。お手洗いで罰を下さいましょう」
「―――え?」
それを聞いてるソリハは驚愕し、体のみならず、心まで震え始めた。
◇◇◇
それは気持ち悪かった。お手洗いでさんざん遊び相手にされて、わたしはビショ濡りの状態で寮へ向かう。
道中では「気持ち悪い」などと、また叩かれる。
あの二人の令嬢にはもう関わりたくない。気づいたら寮の一階にある部屋に到着してしまった。
わたしは中へと入り、ビショ濡りの状態のままベッドへと飛び込んだ。今回は杖をもって帰れなかった。
先、トイレで折られたからだ。
杖が折られて、もはや残りのものはない。杖があれば、何度も立ち上がれると思ったのに。
私は額に腕を乗せて、胸が苦しく、涙を垂れ流す。
なんで現実っていうのがこんなに残酷で理不尽だろう。魔法って、誰でも使えるものじゃなかったの?
これ以上、学園にいる意味も無いし。どうしよう
私は暫く天井を仰ぎ見て、没頭する。
―――――
「――退学しよう」
◇◇◇
「本当にいいのか?」
職員室にて、教師が仕事で専念している最中、わたしは担任の先生を訪問した。
担任の先生は笑顔も、何も見せなかった。冷静で落ち着きぶりのキャラ付きだ。
「ソリハが学年を上がれないのは知っている。でも、これでいいのか?」
「はい、私はもう…この学園にはいられません」
私の決意を見た担任の先生は呆然とした顔で、固い表情を見せた。
だが、彼が悪いわけではあるまいし、私が場違いだけだ。
それがゆえに、先生が「わかった」という時に一切驚きを見せなかった。
◇◇◇
一日目
学園を去る前に、王都の北部で色々回りたいと思う。
特に市場だ。わたしはカワリズミ王国の東部出身であるゆえ、南部にあるこの王都からは長旅になる。
食糧を購入次第、私は一時的に寮に戻り、荷造りを始めた。
退学届を出してから、チェックアウトするのに三日間の猶予は与えられるので、今のうちに作業を進める必要がある。
幸い、寮では一人部屋なので、他の生徒に干渉されずに済んだ。
「よし、食糧はこれでオールオッケー」
と確認して、荷造りが終わった。
今は昼間くらいだ。食糧の他に箱も作っている。
退学する今は引越しせざるを得ない。
◇◇◇
二日目
「貴女、ソリハさんで間違いないかしら?」
鳥の鳴き声が聞こえる寮の庭に、庭の作業をしている間に突然誰かに呼ばれた。
ついに背後から呼ばれるのが慣れて、私は目を合わせずその声の由来に返した。
「何でしょうか?私はもうこの学園の一員ではありませんよ」
「それはどうしてですか?あ、これは失礼。私はアンジェリカ・ビン・カワリズミと申しますわ」
「あ、アンジェリ……」
私はつい作業を止めて、背後に視線を向けた。そこには青い瞳、金髪、そして清楚とした制服姿の女だった。
その優雅で凛とした姿に私は目を丸める。
国の第一王女にして、私が一方的にライバルと思い込んだ人だ。
アンジェリカは微笑んで、優しくかつ丁寧な言葉で話す。
「お会いできて、光栄です。貴女にはずっと会いたくて、ここへ参りました」
「あ、はあ……」




