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異世界では王女、元の世界では普通に死んだ男  作者: 仲河樹
第二章 魔女が隠していること

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第13話 無能なソリハ

女―――魔法ができぬ女。

日々送っている生活は魔術実践授業で必ず零点を取る。

女は魔法使いになりたかったにも関わらず、自ら魔法が駆使できない。

どうして自分は生きているのか、どうして魔法使いになりたいのか、もうとっくに記憶をなくした。

だが、女にははっきりと思い当がある。なぜ自分が魔法ができないと―――女には魔力を持たないからだ。

理不尽な現実を思いつつ、心中やお腹が吐き気を感じるくらいに。


しかし女は諦めたくもない。諦めが悪い―――頑固な女は閑静な廊下を通り抜け、手に長い杖を抱える。女はアル・ハイゼン魔法学園の一年生。女は校舎の裏に向けて、一人で魔法の練習を始めた。


「―――その炎で焼き尽くせ!」

魔導書で書かれる呪文を唱えても、やはり全身から魔力は流れてこない。

何も感じない。

「やっぱり、できないよね」

女は息を漏らして、校舎の草の地面に倒れていた。

(わたしには魔法の才能があったらなー)

「おい、聞いたか、アンジェリカ様はそろそろ上級魔法に挑んでいるらしいぞ!」


ぼんやりしている最中、女は耳に入れた。

アンジェリカ・ビン・カワリズミ。学園の優秀な生徒にして、国の王女様でもある。

彼女とは無縁の存在だ。かけ離れている世界で生きている存在。女が王女様の話を聞いたところで、心中に強い嫉妬を感じさせるのみ。


「あら、ソリハちゃ〜ん。また魔法の練習をしたのかしら?」

唐突、女――ソリハは呼ばれた。

ソリハは直ぐに立ち直って、声の由来を確認する。貴族令嬢の女だ。それも二人。

シルガー家の銀髪令嬢と、スミス家の茶髪令嬢。

(何でこの二人がまた来てしまうの?)

鼻を鳴らす貴族の前にソリハは顔を俯かせる。

「可哀想な子だね〜」

「よくもまあ、この学園に入れたものですわね」

二人の令嬢は扇子で口を隠せて、ゲラゲラとソリハを笑う。

一瞬、ソリハには腹痛が生じる。


「か、返す言葉もございません」

シルガー家の令嬢は扇子を閉じて、腕を組んでいる。


「そういえば、この前の宿題何ですけれども…あれ、わざとでやってるのかい?」

「え、えっと…しゅ、宿題?なんの話で――」

――!!


ソリハが言葉を終える前、ソリハの頬っぺたは叩かれた。

「…へ?」

「惚けるつもり!?わたくしたちの宿題のことよ!」

―――?

シルガー家の令嬢は自分の荷物からある手帳を出して、ソリハに投げる。ソリハが手帳を確認して、零点の大きなマークがあった。

それは地理学の宿題だった。

読んでいるソリハは目を細めて、全身が震える。なぜなら怒り爆散の原因を良くわかってるからだ。


「い、いえ、わ、わたしは地理学が苦手で…」

「はぁ?苦手ですって!?あなた、苦手な物は多すぎるのよ!これだから平民には」

「あらら、やり過ぎなのよ。ウィスキー。気持ちは分かります、ただ―――」


どうやらシルガー家の令嬢の名前はウィスキーらしい。茶髪の令嬢は髪を弄りながら、瞳を細めて「この場所じゃあれなので。お手洗いで罰を下さいましょう」


「―――え?」

それを聞いてるソリハは驚愕し、体のみならず、心まで震え始めた。


◇◇◇


それは気持ち悪かった。お手洗いでさんざん遊び相手にされて、わたしはビショ濡りの状態で寮へ向かう。

道中では「気持ち悪い」などと、また叩かれる。


あの二人の令嬢にはもう関わりたくない。気づいたら寮の一階にある部屋に到着してしまった。

わたしは中へと入り、ビショ濡りの状態のままベッドへと飛び込んだ。今回は杖をもって帰れなかった。

先、トイレで折られたからだ。


杖が折られて、もはや残りのものはない。杖があれば、何度も立ち上がれると思ったのに。

私は額に腕を乗せて、胸が苦しく、涙を垂れ流す。


なんで現実っていうのがこんなに残酷で理不尽だろう。魔法って、誰でも使えるものじゃなかったの?

これ以上、学園にいる意味も無いし。どうしよう

私は暫く天井を仰ぎ見て、没頭する。


―――――


「――退学しよう」



◇◇◇


「本当にいいのか?」

職員室にて、教師が仕事で専念している最中、わたしは担任の先生を訪問した。

担任の先生は笑顔も、何も見せなかった。冷静で落ち着きぶりのキャラ付きだ。

「ソリハが学年を上がれないのは知っている。でも、これでいいのか?」

「はい、私はもう…この学園にはいられません」


私の決意を見た担任の先生は呆然とした顔で、固い表情を見せた。

だが、彼が悪いわけではあるまいし、私が場違いだけだ。

それがゆえに、先生が「わかった」という時に一切驚きを見せなかった。


◇◇◇


一日目


学園を去る前に、王都の北部で色々回りたいと思う。

特に市場だ。わたしはカワリズミ王国の東部出身であるゆえ、南部にあるこの王都からは長旅になる。


食糧を購入次第、私は一時的に寮に戻り、荷造りを始めた。

退学届を出してから、チェックアウトするのに三日間の猶予は与えられるので、今のうちに作業を進める必要がある。

幸い、寮では一人部屋なので、他の生徒に干渉されずに済んだ。


「よし、食糧はこれでオールオッケー」

と確認して、荷造りが終わった。

今は昼間くらいだ。食糧の他に箱も作っている。

退学する今は引越しせざるを得ない。


◇◇◇


二日目


「貴女、ソリハさんで間違いないかしら?」


鳥の鳴き声が聞こえる寮の庭に、庭の作業をしている間に突然誰かに呼ばれた。

ついに背後から呼ばれるのが慣れて、私は目を合わせずその声の由来に返した。


「何でしょうか?私はもうこの学園の一員ではありませんよ」

「それはどうしてですか?あ、これは失礼。私はアンジェリカ・ビン・カワリズミと申しますわ」

「あ、アンジェリ……」


私はつい作業を止めて、背後に視線を向けた。そこには青い瞳、金髪、そして清楚とした制服姿の女だった。

その優雅で凛とした姿に私は目を丸める。


国の第一王女にして、私が一方的にライバルと思い込んだ人だ。

アンジェリカは微笑んで、優しくかつ丁寧な言葉で話す。

「お会いできて、光栄です。貴女にはずっと会いたくて、ここへ参りました」

「あ、はあ……」

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