第9話 日記の隠し事
内政官の事件は国王が引き受けた。そして私はようやく学園生活に集中できるようになった。
「さすが、アンジェリカ様」
「わー、素敵」と私が百点満点を取った話が披露され、周囲からチヤホヤ褒められる。
今回はカワリズミ王国の歴史科目。この世に生まれてから王族の家庭教師に知識を叩き込まれたゆえ、普通にやりこなした。
こっそり内心で記憶を蘇ったら、当時が地獄のような日々だと思った。
「はーい、静かに」
担任の教師がそう注目を集めたら、クラスの全員は沈黙した。
何だろうと首を傾げた私。普段はこんなことをしてないはず。
「この前の失踪したシズクに関してだが、私たち教師全員は探りを入れたんだけど、未だ見つかっていない」
シズクの話をするのか。確かに、ここ数日において、シズクは連続で欠席し続けた。そして、内部の情報では召喚された勇者はトミオカ・シズクで間違いないと。
いったい何が起きてるのやら、後でこっそりとシズクの部屋に行ってみよう。
「それとなんだが……あれだ、あんまり気にせず勉強に心がける方がいいと、私から言いたいことはそれだけ」
最後にホームルームを終了させた担任の教師。彼は黒板に向けて、授業を始めた。
◇◇◇
静寂な部屋。暗闇の中で俺は瞼を見開いて、双眸に出迎えたのがただの天井。
扉の方へ視線を向くと、そこには待ってくれる妹の姿が居た。
「どうした、シズク?」
「いや……なんでもない。そろそろ学校に行きたいだけなんだけど、先にお兄の死体を処理したばかりで」
妹の漠然とした言葉に俺は全身を起こす。
「処理って、言い方が酷くない?」
「実際はもう死んでいるし」
「それはまあ…」
この子、どこからその表現を学んだ?嫌、この年頃では普通かもしれない。読書が好きだもんな。俺は自分の部屋を抜ける。
「お兄はどこに?」
「ちょっと散歩しに行こうと思っただけ」
「えええ、その体で散歩なの?」
シズクの調査は後でやって、今は元の世界を見直したいと考えている。俺は自分の羽織を手に取って、着している。
妹に背を向けて
「お兄、今は夏だよ。暑苦しいはずだよ」
「大丈夫だ。俺はこの体で暑いとか、感じられないからな」
最後に言葉を言い残して、俺は家を出て、公園へと向かった。
◇◇◇
公園…それはかなり良い場所だ。朝っぱらから公園にベンチに居座って、無職の奴がやるような事をした。
俺は羽織を纏って、誰にも顔を見られないようにフードを被っている。向こうの世界では公園に居座る暇など、あまりない。
俺は空腹も、真夏の猛暑も感じられない。故にここで長居できる。
ガキどもが砂でお城を作って、それを見守る親。そして失恋で泣き出す女学生まで眺めてた。
俺はなぜこの公園にいると、家の近くにある公園で世界を見直したいと考える。しかし、それはある程度にやれなかった。俺は妹を放っておけなくて、未練があってあちこちの世界を旅できた。
そしてその挙句にシズクまで向こうの世界に居てしまった。
俺は直接話し合いをしたいのだが、何故かできない。まるで世界が俺という存在を拒絶するように。本来ならこの世で話し合う機会など、いくらでもある。
「どうしようかな」と思わず愚痴を漏らす。世界って不思議だ。
俺は動く屍。その意義を考えるだけで理にかなっているが…
『あなたはシズクの事をどうお考えですか?』
「そりゃあ、放っておけない妹だ…え?」
突然、頭の中で声が響いた。
『そうですか』
俺は唐突に響いた声に立ち上がり、返事をしてしまった。
『あなたは未練に溢れて、向こうの世界でちゃんとした生活を送れない…それに心当たりは?』
「嫌、話を進む前に姿を見せろ!」
俺は思わず声高で話してしまった。なんだよ、いきなり話しかけて、それも姿を見せずに。失礼極まりないであろうが。
相手はおそらく魔法を使っている。周囲を見渡して、人影も見当たらない。
『これは失礼しました。しかし、今の私は不用意に姿を見せられないのです。それはどうかご了承ください』
「何がだ?」
『話を戻しましょう』
その声は俺の頭に響くたびにーーー否、僅かだが、俺の魂に響く度に魂が傷んだ。
それが故に、俺は話を進むのは手っ取り早いと思う。
『あなたが妹を庇う前に、何か悪いことをしましたか?』
「ーーーーーない気がする」
『そうでしたか。そう言えば、自己紹介が遅れて申し訳ありません。私は魔法使いのソリハと申します』
「やっぱり、魔法使いか」
相手が自己紹介して、俺の予想通り魔法使いだった。
だが、一番気になるのが何故コイツは俺の過去を知ってるんだ?
悪いこと?俺は今まで妹のために労働して、妹を守護してきた。どこが悪いのかな?
『そう、あなたにはまだわからないようですね』
相手がまるで俺の内心を読み取ったように、そう返事した。
「おい、今、俺の心を読み取ったか?」
『はい、私は魂を読む加護があります』
「だったら、俺は口を開けずに喋れるってことか」
『そもそも最初からそういう仕組みです』
通りで魂が傷んだわけか。相手は魂とお話できる力を所持している。おそらく、話すたびに魂に何かしらの影響を付与する。
故に、長くお話するのは良くない。先ほどから魂には燃やされた感覚がある。
火傷のようなものだ。
『話が早くなりそうで助かります』
(ああ、そうじゃなきゃ俺は確実に死ぬかもしれないからな)
『では、本題を。あなたは死ぬ前に妹と喧嘩したのではありませんか?』
(記憶が悪くてすまんけど、俺は転生後に死ぬ直前の記憶を喪失したんだ)
『それはなぜだと思いますか?』
(知るか)
俺はベンチに座り直した。靴を脱いで、胡座姿勢になる。
『回答はおそらく、あなたの妹の日記にあるはずです。どうして喧嘩したか、まず、それを探りなさい』
「探る…か」
調査しろっていうことか?このわけ分からない状況のために?まあ、一応、理にかなっている行動だと思う。
だが、日記を思えば、前にその日記を読んだことある。故に探っても意味がないと思う。
俺が見つけた日記では俺と喧嘩してる話なんかは記されていないからだ。
『日記は日記です。たとえ読んでいいと言われても、必ず読まれたくない部分があります。あなたはそれを探しなさい』
ーーーー本当にお見通しか。
俺は溜息して、暫く従事するに決めた。




