第7話 助かる道
「お客さん、着きましたよ」
御者の声で一行は目覚める。
目の前には工房の裏手にある鉄扉が見える。
帝都の外門にある検問所で諸々の手続きを済ませ、気が緩んだのか全員寝てしまったようだ。
御者に代金と心ばかりのチップを手渡し、礼を言って別れた。
「あの兵器の馬車の人達のところにそろそろ応援が到着する頃でしょうかねぇ」
荷物を所定の位置に運びながらリネットが呟く。
「よいしょっと。そうだな。きちんと諸々の手続きと報告は済ませたし、すぐに応援を向かわせるって番兵も言ってたからな」
エリアンは大きな荷物を台車に乗せている。
「もう小さいの無さそうだし俺は飯の用意してくるから」
テオは手首を痛めており、早々に片付けから離脱する。
「あぁ…。任せた…。くぅまだ2往復分くらいあるな…」
「はいはい、さっさと片付けますよぉ」
「それにご飯食べたらエリアンが壊した納品物の作り直しですからね」
「くっ…」
せっかく機嫌が戻ったリネットの気分を害するわけにはいかない。
エリアンは素直に従う他無かった。
◇
少し遅めの昼食を終え、テオはふんぞり返りながらエリアンを顎でこき使う。
「ほれほれ、構造は覚えてんだろ? ちゃっちゃと終わらせろ」
片付けのときや昼食の様子から、エリアンは今日一日リネットのご機嫌取りモードだと察したからだ。
「ぐぬぬ…」
「エリアンが壊した馬車の賠償が無かったからって今回の依頼自体は大した利益出ない見込みなんですからねぇ」
「その納品終わらせたら次の依頼取りにいきますよ!」
リネットはテンションが高い。
(やけに張り切ってるなぁ。まぁ気持ちはちょっと分かる…)
テオにも察するところがあった。
ノーマンの依頼はいつもなら赤字でもおかしくない。
そして実際に馬車を破壊しいつものルートに乗りかけたのだ。
そこからの賠償無しでまさかの黒字化。
今週はツイてる!いけるぞ!と思ったに違いない。
「まぁまぁ、リネットさん肩の力を抜いていきましょうよ。今日はいろいろあったしこれを仕上げるだけで十分なんじゃないですかねぇ?」
「ダメです! そんな悠長な事言ってたらまたいつもみたいにえらい事になりますよぉ!」
「ちょっとちょっと、そういう事言うと本当に何か起きそうだからやめませんか? まぁさすがに今朝来たばっかりだしノーマンも…」
エリアンがそこまで言ったとき、まるでタイミングを図ったように現れるのがあの男だという事を思い出し言い淀む。
テオも思わず鉄扉の方を向く。
「おいエリアン、変な事言うなよ。ちょっと本当にあいつが来るかと思ったじゃねぇかよ…」
『ギィィィ…』
「「「え?」」」
「呼びました?」
まるでタイミングを図ったかのようにノーマンが現れた。
◇
「勘弁してくれよ…」
「やだなぁ。まだ何も言ってないのにそんな邪険にしないでくれよぉ」
「じゃあなんの用だよ…。面倒くさいの持って来なかった試しがないじゃねぇかよ…」
「いやいや、そうとは限らないよ? ちょっとした確認を上から頼まれてね?」
「確認…? それだけなのか?」
「うん。今のところはね」
「何だよその含みのある言い方…。それで確認て何だ?」
「さっきね、番兵から緊急連絡が入ったんだよねぇ。ナウマリスとのエーテル通信が繋がらないってさ」
「ふーん」
「それでその後、帝都外の救援活動へ行った部隊の1人が急いで戻ってきて言うんだよねぇ」
「ん? 救援って昼のあいつらか…?」
「街道の傍の地面が陥没していて、そのせいで周辺の地盤も崩れたみたいでさぁ。ナウマリスと通信する地中のエーテル送信ケーブルが断線しちゃったみたいなんだよぉ」
「「「!?!?!?!?」」」
「何か知ってるかなぁ」
滝のような汗をかく3人を見てノーマンはニコリとする。
「いやぁ、学術院の上層部が大変お怒りでねぇ。宥めるのに苦労したなぁ」
「ノーマンさん、お茶飲みます?」
エリアンは震える声を絞り出した。
◇
「お客さん達も災難ですねぇ」
御者が苦笑いで話しかけてくる。
「いえいえ、御者さんも戻ってきて休憩中のところすいません…」
エリアン達は再び馬車に揺られていた。
もちろんノーマンからの指令だ。
『ナウマリスに熊が現れたみたいでさぁ。調査を学術院に押し付けられたみたいなんだよねぇ』
『それで誰に行かせるかって話でみんなやりたがらなくて困ってたところだったんだよぉ』
『これを引き受けるならすり潰すのは勘弁してやるってさ。どうする?』
断れるわけがない。
どうせ今回の事が無くてもうちに押し付けるような案件じゃねぇかと言いたくても言えるわけがない。
二つ返事で引き受けるしか、助かる道なんて残ってないのだ。
幸運だったのは、今朝の馬車業者のところへ行ったら先程の御者が1人だけ残っていた事だ。
ひと仕事終え休憩中なのだろうなと察したが、背に腹は代えられない。無理を言ってナウマリスまでの送迎をお願いしたのだ。
テオとリネットの視線も痛い。
「お前があんなもん使うからだぞ」
目がそう語っている。
「エリアンの煮付けは味噌で味付けします?」
「そうだな。肉はまずそうだが味噌煮なら割と食えそうだ」
「大変申し訳ございません…」




