第60話 姉妹
あのとき。
友達になってほしいと言われたとき。
私の人生の全てが肯定された気がした。
私には持っていないものを全て持っているように見えた彼女が必死に叫ぶ姿を見て。
私と同じような弱さを見せて必死に叫ぶ姿を見て。
この想いに応えなければ、私が私を否定してしまうような気がして、それ以外の全てがどうでもよくなった。
………
……
…
4月13日 土曜日。
リネットは目を開ける。
「あれ?」
目を覚ますと見慣れた天井がある。
なぜか涙を流している。
(悲しい夢をみていたのかな…? 全然思い出せない…)
(夢って不思議ですねぇ。さっきまで見てたはずの事でもすぐ忘れちゃう)
(でもなんだか悲しい気分ではなかったような。むしろ嬉しい気分だったような気もします)
(さて、今日は久々のお休みなので二度寝でもしますか)
◇
――昼過ぎ。
工房が休みの日は各々が1階の食堂として使用している部屋で食事を摂る。
別に作業場の方でも良いのだが、テオはもっぱら
「あの匂いの中にいると休みの日まで仕事をしてる気分になるから俺は行きたくない」
と言っている。
二度寝から目覚めたリネットは
(そうは言っても私は地下から上がっていくので嫌でもこの匂いに触れるんですけどねぇ)
と少し苦笑いをしながら階段を登っていく。
食堂に着くとすでにエリアンとテオがいた。
エリアンは食事中で、テオは食後のコーヒーを飲んでいるところのようだ。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
「おっす」
「ブランシュはまだ起きてないんですか?」
「あいつはどうせ日光浴してんだろう」
「あぁ、屋上ですか。そういえばずっとローブを床に敷いて寝っ転がってますよねぇ。もうちょっと布団みたいなものを敷いた方がリラックス出来そうな気もしますけどぉ」
「そうだなぁ。そしたら2人で買って来いよ。昨日ノーマンが幽霊騒動の調査の報酬置いてったし」
「そうですねぇ。じゃあ後で買いにいってきます!」
◇
――3時間後。
台車に新しい敷布団を乗せ、リネットとブランシュは市場の方から工房へ戻ってきていた。
「あらぁ。リネットちゃんとエマちゃんじゃないの! また何日か見てなかったわねぇ!」
「マルタさん! どうもです。また少しバタバタしてましてぇ」
「まったくエリアンは次から次に! 水曜だったかしらねぇ。見かけたけど相変わらずだったからリネットちゃんを見習いなさいって言っといたわよ」
「おぉ、エリアンと会えたんですね! そうか、臨時講師の日ですね。いっつも大荷物で裏の方から出かけるので表からはなかなか出ないですからねぇ。良いタイミングでしたねぇ」
「まぁ元気そうで安心したわ。そうそう、安心といえば。今週4日連続だったかしら。幽霊騒ぎあったじゃない? あれ昨日と今日は起きてないみたいよ?」
「…! おぉ! どっかいっちゃったんですかね?」
「分からないわぁ。何はともあれこれで終わってほしいわねぇ。平和が一番よ」
「そうですねぇ。きっと幽霊さんは成仏したのかもしれないですねぇ」
「じゃああたしはこれから買い物だから行くわね。またねぇ」
「はい! またお話しましょう!」
マルタは数歩歩いたところで振り返る。
口数が少ないエマと活発なリネット。
だが仲良さそうに何やら喋っているようだ。
(この前は少し距離があるように見えたけど、もう大丈夫そうねぇ。今は姉妹みたい。リネットちゃんの方がお姉さんに見えるけど)
微笑ましいその姿に安心し、再び市場の方へ歩き始めた。




