第61話 深淵
――同時刻。工房。
『コンコンッ』
表の扉をノックする音がした。
「え…。まさか休日なのにノーマンが来たんじゃ…」
「いやいや、あいつは裏からしか来んだろう。てかノックもせずに勝手に入ってくるやつだ」
「確かに…。でもうちに来るやつなんてノーマンくらいしかいなくないか?」
「まぁとりあえず俺が出てくる」
そう言ってエリアンは玄関の方に向かう。
扉を開けると、そこには爽やかな笑顔のレオンが立っていた。
「どうも。こんにちは」
「おぉ、レオン君じゃないか。どうしたのかな?」
「…ッ! まさか面倒な依頼を…」
「ちょっと! 早くもノーマンさんのような扱いはやめてくださいよぉ。少しお話があって伺っただけです」
「お話ねぇ。まぁ中に入ってくれ」
「あれ、レオンじゃん。珍しいな」
玄関の方から戻ってきたエリアンと、苦笑いをしているレオンを見てテオは驚きの声をあげる。
「やあ、テオくん」
「おっす。まさか厄介な依頼を…」
「もう! エリアンさんとリアクションが同じなのなんでですかぁ! だいぶノーマンさんにやられていますねぇ」
また苦笑いをしつつ、席についたレオンは少し低いトーンで続ける。
「まぁ実はそのノーマンさんの件でお伺いしたのですが」
「ノーマンの?」
エリアンもテオも完全に予想外の展開に怪訝な顔をする。
「えぇ。まだ何がどうって話ではないのですが、一応お耳に入れておこうかなと思いまして」
「…」
「ノーマンさんの動きが怪しいと、実は軍部の方で少し話題になっておりまして」
「…。あいつはいつも怪しいが…」
「ははは。まぁそういう方なのはこちらでも分かっていますので、最初はそこまで気にしてなかったようなのですが」
「ただ2回目の暗殺現場なんですが、高官の他に2級の護衛も殺されていまして」
「2級が?! あの護衛の中にそんな手練がいたようには見えなかったが…」
「あのとき僕の反対側を見ている護衛がいるってお話したの覚えていますか? あの反対側にいたのがその人だったのです」
「現場には魔旋痕が見当たらず、背後から心臓をナイフで一突きにされていました。そこで浮上してきたんです」
「…」
「2級を背後からって…。え? そこで浮上ってノーマンの話だよな? え? ノーマンてそんな強いの?」
テオが驚いたようにエリアンに尋ねる。
「…。あいつは俺と同等のオド操作能力を持った発現者だ…。1級…。帝都でも屈指の精鋭の1人だ…」
「え…」
「あいつなら…。確かに2級相手でも完全に封殺する事が出来るだろう…。が…」
「そうなんです。まぁ1人でやったかも分かりませんし、条件が揃えば複数人でアノマライトを使ったりなんだりで出来ない事もないかもしれません」
「ただ、1人目の際にもノーマンさんだけ通達が来ていなかったと言っていたり、2人目の護衛に関しては軍部にも知らされていませんでした」
「そういう細かいところを合わせると、少し警戒すべきなのでは…という流れになっていまして」
「…」
「まぁ先ほども言いましたが、まだ何をどうこうする話にはなっていませんのでご安心を」
少し空気が重くなったので、レオンは再び明るい顔を見せ場を緩和させようとする。
「一応、もし気になる事が今後あったりした場合は、私宛に統括局へ投書していただけると助かります。本日はそれだけ言いに来ました」
用件を言い終わったレオンを見送りながら、エリアンは表の空を見上げる。
幽霊騒動は片付いたが、暗殺事件に関してはまだ何も進展が無い。
生きた人間の脅威が生々しく背後に近づいてくるような気配。
晴れやかな空模様とは裏腹に、そんなドス黒い空気をエリアンは感じた。




