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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
帝都アルレウスを彷徨う幽霊

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第58話 叫び

階段を駆け上る。


(この階段を登りきったら、もう引き返せない気がする…)


(だが私は今まで逃げていた事に向き合うときが来たというだけだ)


(この1段1段が少しずつ覚悟を決める後押しをしてくれているみたいだな…ふふっ)


この非常時に思わず笑った自分におかしくなり、もう一度笑った。




最後の一段を登りきった先に待ち構えていたのはセラフィナではなかった。


「リネット…? いや、エレノアなのか?」


「来るな!」


床から数cmの宙に漂い少し半透明なリネットの姿をしたその霊体は拒絶を示し、輪を作った指の間からブランシュを見る。


「…ッ!!!」


間一髪でかわす。


背後で氷塊の砕ける音がする。


「お前なんていなくなれ!!! 消えろ!!!!」


なおも霊体は攻撃を続ける。


指先を伸ばし腕を振る。

その危険な匂いに思わず横っ飛びで倒れ込む。


床には斬撃の跡が残る。


(かまいたちか!?)


足に掠ってしまったようだ。痛みを我慢し立ち上がる。


「発現者め!!! 嫌いだ!!! 殺す!!!」


霊体が三度目の攻撃を仕掛けようとしたときだった。


ブランシュは意を決したようにリネットを、エレノアを見つめる。


そして叫ぶ。


「私と友達になってくれ!!!!」


霊体の手が止まった。




「私は…今まで逃げてきたんだ…。怖かったんだ…!! お前達が!!!」

「強い自分がいつも戦わないといけないのは弱いお前達のせいだ!! …心の何処かでそう思いながらお前達を守り続けた!!!」

「憎んでいた…!! そう思っていたはずなのに…本当は自分が必要とされなくなってしまったらきっと捨てられるという弱い心を隠していたんだ!!!」

「弱い心を知られるのが怖くて誰とも向き合えなかった…!! 弱いやつだと失望されたら捨てられるかもしれないから!!!」

「向き合って、理解してもらえたとしても、次は失うのが怖い…!!!」

「1人では守れるものに限りがある事も知っているんだ…。私には選べない…。全てが怖かったんだ…」


「でも今日で逃げるのをやめるって決めたんだ…」

「私は…いつか選ばないといけない日が来ても…その選択を後悔する日が来ても…後悔したい…」

「私を受け入れてくれた工房のみんなと…後悔しないように逃げるよりも、向き合って後悔したいんだ!!!」

「お前の事をもっと知りたい…だから…戻ってきてくれ…戻ってたくさん話そう…エリアンも、テオも、エレノアも、いつか後悔するときまで…後悔出来てよかったと思えるくらい向き合いたいんだ…」

「戻ってきてくれ…」




…。




途中から何を言っているか分からない気もする。


でも今の全力をぶつけた。


今この選択をした事だけは後悔しないだろう。




…。




目を開けるとエリアンとテオが視界に入る。

2人ともすごい顔をしている。


「戻ってきたか!!!!」

「よかった…本当によかった…」


「ッ! リネットは?」


起き上がるとリネットと手を繋いでいる事に気づいた。


リネットは穏やかな顔で涙が耳の方に伝っている。


「大丈夫だと思う。オドの気配と頭から聞こえていた変な音が消えた。きっとそのうち目を覚ます。やってくれたんだなブランシュ。本当にありがとう」


ブランシュはリネットの涙を指で拭った。


「起きたらたくさん話そう。待っているぞ」

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