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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
帝都アルレウスを彷徨う幽霊

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第54話 片鱗

リネットの本名。

エレノア・シュタイナー。


体調不良、青龍の襲撃、そして生家の人間の襲撃。


だめだ、思考がまとまらない。


「こんな時にすまん。5分ほど休ませてくれ…」


その場に座り込み両手で顔を覆う。


(落ち着け…。深呼吸だ…)


考えたくないその結論に至る思考を身体が拒絶しているかのようだ。

激しく動揺している事が自分でも分かる。

動悸がうるさく呼吸も荒い。涙が落ちたのも感じる。


(落ち着け…)


ブランシュが優しくエリアンを背中から抱きしめる。

エリアンの様子を心配したからなのか、事情を察したからなのかは分からない。

ただ今は1人ではないと感じられる事が何より心強い。

次第に落ち着きを取り戻しているのが分かる。




「よし、もう大丈夫だ。取り乱してしまってすまん」

「まだ情報が不足している。話を聞きに行こう」


2人は立ち上がり、屋敷の中へ歩を進めた。



     ◇



数名の憲兵がいる。

さすがに民間人と違い軍部も人数を割いているようだ。


部屋に案内されるまでにいくつか質問をして情報を得た。

被害者は軍部所属。この家の主であり軍部の上層部に所属する男の長男という事だ。


部屋の中を見て回るがやはり痕跡らしい痕跡は見当たらない。

元より期待はしていなかった。

それよりも今は被害者とリネットに関する情報がほしい。


広間に数名の人が集まっているのが見える。

が、エリアンがそちらに向かおうとする素振りを察知した憲兵に止められる。


「現場と関係ない場所への立ち入りはご遠慮ください」


「…。すいません。わけあって詳細は話せないのですが、エレノアさんの話をご存知の方がいらっしゃいましたらお話を聞きたいのですが」


「エレノア? それはどなたですか?」


「…それは…」




そのときだった。

こちらに怪訝な顔を向けていた集団から外れ、一人の老婆がこちらに向かってくる。


「エレノアと言いましたか?」


気品漂う佇まいの中に、驚きを隠せていない不調和な表情が何かを知っている事を告げていた。



     ◇



老婆の案内で別室に通される。


「エレノアについてですね。何が聞きたいのでしょうか」


「青龍との関わりについてもしご存知の事があればお聞きしたいです」


老婆は再び驚いたように一瞬目を見開いた。


「私が知っている事は大したものではありません。おそらく貴方がたがエレノアと青龍の名前を出している時点でほとんど知識は変わらないと思いますが…」


「構いません。今は少しでも情報がほしいのです」


「わかりました」


ブランシュは先程から会話の邪魔をしないよう黙って聞いている。


「私がエレノアと青龍の事で知っているのはあの日の事だけです」

少し遠い目をして話し始める。


「エレノアは私の孫です。当時あの子は汎用訓練校の卒業を控えており、その後は家の手伝いをしつつ縁談の話があれば相手が誰であろうと嫁がされる事が決まっていました」

「私と、一昨年亡くなった夫は、日々悲しそうな顔をして過ごす孫を見かねて、気分転換にとよく家の者と共にお使いを頼んでいたんです」

「それがあの日…」

ハンカチで目頭を押さえる。


「家の者が買い物に向かった先で抗争に巻き込まれたとボロボロの服で血相を変えて帰ってきました」

「彼女も爆発した際に飛んできた破片の直撃で腕を骨折していました。崩れてきた建物から間一髪逃れましたが、頭に直撃を受け流血して気を失っているエレノアは巻き込まれたと」

「自分一人ではどうにもならないから助けを呼びにきたと言い、気を失いました」


「その後エレノアさんの捜索があまりされませんでしたね? そのあたりの経緯をご存知ですか?」


「いいえ。私は詳しくは…。ただ激怒する夫と息子達が大揉めしていたのは覚えています。そのときに青龍と玄武の抗争だったという話は聞きました」

「ご存知のように、あまり捜索は行われず、そのままエレノアの葬儀が簡易的に行われました」

「夫はエレノアを切り捨てて事態を穏便に済ませようとする息子達に最後は折れてしまった事をずっと後悔していました。その心労が祟ったのか、半年後に…」


「そうでしたか…」


「うちは軍部の家系ですから、発現者や男がどうしても優位な立場なんです。夫も発現者でした」

少し懐かしそうな目になった。


「夫は60年前のシルヴァレムとの紛争以前から外交官として彼の地を訪れていたんですよ」


ブランシュが少し反応したのが分かった。


「私は詳しくは分かりませんが、相手のオドを覚えて相手が今どういう感情なのかが何となく分かるそうです」

「それで交渉事が得意でしたので、外交の大任を任されたみたいです」

「まぁ息子達は説得出来なかったようですが」

自嘲気味に少し笑った。

エリアンも少し穏やかな表情をする。


「そういえば夫は言っていました。エレノアは発現者にはなれなかったが、オドの感性は自分に似ている、と」

エリアンは下を向く。

思わず表情が消えてしまったのが分かり、不穏な気配をこの老婆に悟らせまいとした。




エリアンは少し雑談を交えた後、丁寧に礼を言い、屋敷を後にした。




「何か…分かったんだな」


「あぁ。馬車で話そう」

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