第53話 気配
4月11日 木曜日。
10時を過ぎたところだが、工房メンバーはまだ寝ている。
昨夜はなかなか寝付けなかったようだ。
エリアンが静かに目を開く。
そのまま足音一つ立てずに作業場へ降り扉から外に出て行く。
「4人目か?」
扉を開ける前にエリアンが出てきた事に、ノーマンは驚く素振りを見せない。
「厳戒態勢だねぇ。なるほどなるほど。リネットちゃん体調悪そうだったもんね」
「お察しの通りだよ。昨日はどうだった?」
「あぁ。お前が言ってたみたいに痕跡は見つからなかったよ」
「というか全員青龍ってお前わざと黙ってただろ」
ジロリとノーマンを睨む。
「いやぁ、青龍だと先に聞いたらリネットちゃんの事もあるし冷静に分析出来ないかもって心配になってさぁ」
「…」
確かにそれは否定できない。
「今日は青龍絡みの聞き込みに行こうと思っていたんだ。だが4人目の被害者が出たならそっちを先に見ておきたい」
「うん。ここだよ。ただ今日は青龍じゃない。軍部のお偉いさんだ」
「…!!!」
目の前の景色が歪みそうになる感覚に、ノーマンからのメモを受け取る手が止まる。
「何となく考えている事は分かる。俺も軍部高官の暗殺と幽霊騒動は別件だと考えていたから今朝報告受けたときは軽くパニックになったよ」
「…」
「俺の中ではまだ確信が無いし、本当は言いたくないけど、頭ぐちゃぐちゃだろうし一応言っておこう。今日の被害者は学術院の利権が絡む視察の予定は入ってなかった」
「…ッ」
「そして軍部の暗殺された2人と今朝の被害者の関係は見つかっていない。まぁあくまでも『今は』ね」
「…。そうか。助かる」
………
……
…
工房の中に戻るとブランシュが目覚めていた。
「調査か?」
何となく察しているようだ。
「あぁ」
「テオに留守を頼んで俺も支度してくる。お前も支度しててくれ」
激動の一日が静かに動き出した。
◇
――2時間後。
3区画離れた現場の屋敷へ到着する。
馬車の中では穏やかな時間が流れていた。
終始無言でエリアンは外を眺め、ブランシュは目を閉じていた。
思考は昨日の段階で尽くしている。
無駄なエネルギーの消耗を抑えているかのようだった。
馬車が止まるとエリアンとブランシュは飛び降りるかのような動作で足早に歩き出す。
一刻も早く情報がほしい。
飢えた獣のようだ。
が、それも束の間、エリアンが急に立ち止まりブランシュがエリアンの背中にぶつかる。
「う…。こんなときに急にどうした?」
エリアンが目を見開き完全に硬直している。
そして少し震える手を見て何か尋常じゃない事が起きた事を察する。
「おい!」
再度の問いかけに我に返ったようだ。
「何かあったのか?!」
エリアンは指をさし震える声で話す。
その指先は門の中程を示しており、そこには『シュタイナー』と刻まれた重厚な表札が鎮座していた。
「リネットの生家だ…」




