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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
帝都アルレウスを彷徨う幽霊

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第52話 痕跡

現場に到着し、憲兵にノーマンからの依頼である事を伝えると中に案内された。


「こういう痕跡を探すようなときにはお前の鼻の方が精度が高そうだ」


エリアンに促され、ブランシュが部屋の中を嗅ぎ回る。


スンスン…


「このへんにわずかに魔法を使った匂いがあるな」


「ランプの火を付けたんだろうな」


スンスン…


「これは臭いな」


「洗濯せずに溜め込んでたんだろうな」


スンスン…


「これも臭…おえっ」


「パンがカビてるな」

(なんか犬みたいで面白いな)


………


……


…


ブランシュは涙目になりながら一通り部屋の中を嗅いで回ったが、ランプの火をつけたと思われる痕跡しか見つからない。


「やはり事前に聞いていたとおり何も手がかり無しか」


ブランシュの後に続き、部屋の中を歩き回っていたエリアンも特に気になる点は見つからなかったようだ。


「念のために確認ですが、この扉の取っ手が壊れているのは部屋に入る時に壊したんですかね?」

エリアンは案内してくれた憲兵に尋ねてみる。


「はい、そう聞いています。住人によれば前の2件の噂は聞いており、この部屋の人物はその2人と同じ『青龍』に所属しているため取っ手を壊す判断をしたと」


「青龍に? というか3人に共通点あったのか…! ノーマンめそんな大事な事を…」


「その青龍というのはなんだ?」

聞き慣れない単語にブランシュが反応する。


「狙撃での暗殺を請け負う非合法組織の話をしたよな? 青龍は破壊や証拠隠滅を請け負う非合法組織の一つだ」

「『青龍』『朱雀』『白虎』『玄武』この4つが特に大きい組織だ。そして青龍はかつてリネットが巻き込まれた事件にも関与している」


「なるほど…」


「とはいえ共通点が見えたからと言って手口の解明には関係なさそうではある。よく小競り合いを起こしているその4者だが…」

「大規模抗争の火種になりえるような、直接的に構成員を襲撃するような事はしないだろうからな」

「しかもこんな手法じゃなく普通に銃とか魔法具を使うだろうし。あと気になるのは、被害者が全員重傷という事だ」


「…。言われてみると確かに少し違和感があるな」


「あぁ。こんな痕跡を残さないようなまわりくどいやり方をしておいて、殺すところまではしていない」

「腹立ち紛れにボコボコにしましたっていうならそんな摩擦の生じる事をしでかす短絡的なやつの手口としては緻密すぎる」


その場で少し考えるエリアン。


「これ以上手がかりは見つかりそうにない。リネットも心配だし今夜はいったん帰ろう」


案内してくれた憲兵に礼を言い、エリアンとブランシュは帰路についた。



     ◇



工房の区画にある馬車の乗合所に到着し、工房までの道のりを歩きながらエリアンは頭を整理する。


(最近いろいろあったが、狙撃による暗殺と幽霊騒動は別物と定義しよう。厳密に無関係であると断定する要素は無いが、逆に関係あるとする要素も無い)

(強いて言えば。暗殺は軍部、幽霊は青龍。標的が明確に異なり、それぞれ別の事件と考える方が自然だ。軍部と青龍の繋がりが出てきたら話は変わってくるがな)

(俺としてはノーマンから依頼されない限りは幽霊の方をどうにかしたい。リネットが巻き込まれている可能性が否定できなくなってきた)


「おい、何か喋れ。少年も言っていたがお前は頭の中で考えすぎだ。つまらん」


「つまらんて…。まぁそうだな。すまん」


ブランシュに突っ込まれ、エリアンはさっき考えていた事を話す。




「確かに幽霊の方が気がかりだな。何か調査を進める算段はあるのか?」


「無い。少なくとも手口から辿るのは無理そうだ。そうなると動機から辿るのが正攻法だろうな」

「青龍周りの情報を聞き込みしようと思う。ノーマンの調査依頼の範疇だしきっと他の依頼をねじ込まれそうになってもこっち優先でいけるだろうとは思う」


「そうか。単なる怨恨であればあの娘の体調不良は別問題という事になるからそれはそれで進展になるしな」


「あぁ。今のところ眠いのと頭が痛いってだけでそこまで気にするほどでも無いのかもしれんが…。幽霊と無関係であればノーマンに闇医者の手配してもらって一度診てもらおう」


話をしているうちに工房に到着する。


「…?」


「どうした?」


「何か一瞬違和感があった。いつもと少し違う匂いだったような気がしたが。ただ気のせいかもしれん」


「そうか。俺達もいろいろ巻き込まれて過敏になってるかもしれんしな。ただ何があるか分からんから違和感あったら今みたいに都度共有するようにしよう」


「分かった」



     ◇



いつでも見に行けるようにという事だろうか。

リネットの部屋の扉が開いている。

そして部屋の前には、テオが椅子を持ってきて座っている。


「リネットの様子はどうだ?」

中を見るとリネットは寝ているようだ。


「ずっと寝てたよ。そっちは?」


「ノーマンが言ってたように痕跡なし。ただ被害者は3人とも青龍の構成員だった。明日は聞き込みをしよう」


「青龍…。そうか。ノーマンが別の依頼を持ってこなければいいな…」


「あぁ…。少し気になる事もあるし俺は今夜はここに布団持ってきて寝るよ。お前はどうする?」


「俺もそうしようかな。さすがに通路には入り切らんからベッドの横の床にしようかな」


ブランシュもやってくる。

「私は作業場のソファで寝よう」


「すまんな。今夜は明かりをつけたままにしよう」


まだ何も分かっていない。

だが見えない敵と見えない動機に対する漠然とした焦燥が全員の言動に現れていた。

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