第51話 対称
「リネット大丈夫か?」
一行の準備が終わり、工房を出ようとしたとき、リネットがふらつきソファに倒れ込んだ。
「ちょっと頭が…」
「リネット昼過ぎまで寝てたのにノーマンたちが来るちょっと前にも体調悪いって言って寝てたんだよ…。最近の様子がおかしいのもやっぱなんかあるのかな…」
テオが心配そうにリネットの日中の様子を伝える。
「そうか。よし、リネットは残れ。あともう1人ちょっと残ってくれ。そうだな…」
エリアンの視線がブランシュの方に向けられそうなそのとき。
「あ…」
リネットの微かな声。
「…!」
「テオ、お前残ってくれ。あと薬の場所分かるよな? ちょっと取ってきてくれ」
「おう」
「じゃあブランシュ。調査メインだし荷物は簡単な測定機と魔法具だけでいいだろう。ちょっと持っていかない荷物置いてきてくれ」
「わかった」
「俺はリネットを部屋まで運んでくる」
………
……
…
リネットをベッドに寝かせ聞いてみる。
「言いたくなかったら言わなくていいんだが、ブランシュと何かあったのか?」
「…さっきはごめんなさい。えぇと…」
「何か悩んでたら何でもいいから言ってくれ。言うだけで気持ちがすっきりしたりするしな」
「…。その…。嫌いとかそういうのじゃないんですけど…」
「うん」
「…。ちょっと上手く接する事が出来てないなって…」
「そうか? 気にしすぎなような気もするが。俺は別に普通に接してるように見えるけどな」
「昨日も現場で迷惑かけちゃったり…。ブランシュさんはすごい人なのに何だか足を引っ張っているような気がして…」
「あいつはそんな事気にするようには見えんけどなぁ」
「それに…」
「それに?」
「ブランシュさん、私といるときは困ったように笑うんですよね…」
エリアンは立ち上がりリネットの頭を撫でる。
「たぶん時間が解決してくれると思うぞ。2人共距離を縮める機会がなかなかなくて、それが少し苦手意識みたいになってるんだろう。大丈夫だ。2人共良い奴だと俺は思ってるから」
「とりあえず寝て早く体調治せよ。じゃあ行ってくる」
「はい…。いってらっしゃい」
◇
――移動中。
「…彼女の様子はどうだった?」
ブランシュが切り出す。
あまりそういうタイプには見えないが、なんだかんだリネットの事を気にかけているように見える。
「正直分からんが、とりあえず寝てるよ」
「…そうか」
エリアンは少し迷ったが語り始める。
「これは俺の口から言うのも野暮なんだが…。リネットは実家から捨てられたんだよ」
「…ッ!」
「あいつの家は軍部の名家でな。家系には発現者が多く、軍部の高官も定期的に輩出している家なんだ」
「だから発現者でもなく、戦士としても筋力で劣る女は、政略結婚の道具としか見られていない環境だったんだ」
「…そう…か」
「そしてあいつが15歳のとき。今から3年前だな。家の者と買い物に行かされたとき、非合法組織同士の抗争に巻き込まれたんだ」
「俺はそのときノーマンに頼まれて、抗争の起きそうな場所を巡回するように言われてたんだが」
「俺が駆けつけたときには、崩れた瓦礫の隙間から頭部に重傷を負ったリネットを見つけたんだ」
「…」
「たぶん周りの状況からして、レゾナイト鉱を積んだ荷車にでも爆弾が当たったんだろう。周囲にレゾナイト鉱が散らばっていた」
「そして頭部に直撃した…という事だと思う。一緒に使いにきていた家の者はリネットが死んだかもしれないと報告したんだろう」
「1週間後に目を覚ましたリネットから家の事や使いで来ていた話を聞き、ノーマンに調べて貰ったんだが…」
「…」
「リネットは死亡者扱いされていたよ」
「それで捨てられた…と」
「あぁ。1週間かそこらで、大して捜索された様子も無かったようだからな。捜索コストや治療コストをかける手間すら惜しんだんだろう。酷い話だ」
「リネットは本名じゃないんだ。軍部の名家が死亡者扱いしたんだ。生きてましたじゃ体裁が悪いから、最悪消される可能性もある」
「…ッ!」
「魔紋の記録が残る可能性がある病院を受診する事や、正式な身分証の発行も出来ないから職につくことも難しい」
「…。なぜその話をしようと思った」
「お前も大概不器用に見えるからな。なかなか他人との距離を縮める事が出来ない。その理由はいろいろあるだろうが…」
「まずは相手を知るという事は必要だからな。最低限のサポートはしたつもりだから後はお前次第だ」
「そう…だな…」
「私がなかなか他人と向き合えない理由は分かっている。ただ、それとは別に苦手意識のようなものが彼女にはあるんだ」
「お前の話を聞いてその理由が分かった気がした」
「無理に向き合えとは言わないけどな。向き合う事の怖さは俺も分かっているつもりだ」
「…。彼女はな、私といるときは困ったように笑うんだ。気を使わせてしまっているんだろう」
「私もそろそろ向き合わないといけないんだろうな…」
エリアンは軽くため息をついて言う。
「俺は大丈夫だと思うぞ。お前たちは正反対だけどよく似てるよ。きっかけさえあれば良い関係になれるって思ってる」
「そうか。ありがとう」
「おっと、そろそろ見えてきたな」




