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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
交易港ナウマリスを覆う暗雲

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第5話 討伐

(まずい…!!)


エリアン・ヘルの射出のタイミングと叫び声が被り、手元が若干狂ってしまったのを感じる。

魔獣の突進経路上だと目測していた位置より、ほんの少し奥側に杭が突き刺さったように見えた。


突き刺さった杭が地中に振動を起こす。

数秒で周囲の地面を流砂状に変えていく。




一瞬右側、テオの声が聴こえた向かいの馬車の方へ視線を送る。


テオが尻もちをついて顔を押さえている。

そばには転んでいる知らない男もいる。


(向かいの馬車から逃げるやつにぶつかったのか…?!)

2人のいる位置は魔獣の突進経路とは外れているように見える。

(ひとまず大丈夫そうだ…!)




視線を正面に戻す。

まさにエリアン・ヘルの範囲内に魔獣が侵入しようとしていた。


やや奥側に杭が刺さった影響か、魔獣の左前脚が先に流砂の縁付近につき体勢が少し左に傾く。


(よし!!!)


エリアンが勝利を確信したそのときだった。

魔獣が悪あがきで崩れた体勢のまま飛び上がろうとした。


(…ッ!!!)




左へ傾きながら推進力そのままに前方へ一回転する魔獣。

そして流砂の範囲の向こう側へ倒れ込み、横倒しになった体勢のまま滑っていく。


「あ…」


その場にいた全員が魔獣と馬車の衝突を察する。


御者は両手剣を放り出して横へ飛ぶ。

テオと、テオにぶつかった男はその場へ伏せる。

エリアンとリネットは呆然と見つめる。


スローモーションのように長く感じたその時間は、魔獣と馬車の衝突音と共に終わりを告げた。




「…!」

エリアンは一瞬呆然としていたが、すぐに魔獣が起き上がれない様子を見て我に返ったようだ。


「リネット! チャンスだ!! あっちへ回り込んで撃て!!!」

テオ達に弾が当たらないであろう位置を指さしリネットへ指示を出す。


「は、はいぃぃ!!」

リネットの返事と同時に魔獣がもがき始めた。

手当たり次第に火を吹き散らす。


「熱!」

駆け出そうとしたリネットの足が止まる。

魔獣と距離が近い御者やテオ達からも苦悶の声が漏れた。


「アノマライトを投げろ!!!」

そう叫ぶと足首に装着していた小物入れから鉱石を取り出し魔獣の方へ投げる。

テオも思い出したように足首の小物入れへ手を伸ばす。


エリアンの投げた鉱石は少し右に逸れて止まってしまったが、テオの投げた鉱石が魔獣のすぐ傍で止まった。



     ◇



魔獣の火がこちら側へ来なくなったのを見てリネットは駆け出す。

と同時に氷塊砲に外付けしている氷塊生成の魔法具にエーテルを流し込む。

瞬時に弾の生成が完了し、砲身から冷気が伝わる。


射線の開けた位置へ到着すると氷塊砲を素早く構え、照準を覗いた。

魔獣は足を負傷したのか起き上がろうともがいているようだ。

外さないように真ん中に狙いを定め引き金を引く。


氷塊が魔獣に命中する衝撃音が響き渡り、魔獣がうめき声を上げる。

もがく動きが鈍り、火が止まる。

その様子を見て御者も落ちている両手剣を拾い魔獣へ斬りかかった。


魔獣の背に深々と御者は剣を突き立て、断末魔が響き渡る。

間もなく魔獣の動きが止まった。




リネットは2発目の装填を完了し照準を覗く。

そのときエリアンが魔獣へ近づいて行くのが見えた。


「念のため離れて!」

御者に声を飛ばしながらこちらを手で制している。


引き金に指をかけたまま、照準越しにエリアンの様子を見る。


エリアンはテオの投げた鉱石を横の方に蹴飛ばし、魔獣の方を見つめる。


「大丈夫だ! 音は消えている!」

その声を聞き、引き金から指を離した。



     ◇



「痛ぇ…。何とか仕留めたみたいだな…」

テオが額を押さえながら立ち上がる。


(ん…?)


ふと開けた視界に違和感を覚える。

視界いっぱいに鮮やかな色彩が広がる。

特に右側からの色が濃い。

目をやるとむき出しの兵器が転がっている。


(う…。気持ち悪い…)


「おい! お前眼帯どうした! 下向いてろ!」

エリアンが慌てたように声をかける。


左目は感度が非常に高く、閉じただけではエーテルの発する色をシャットアウト出来ない。

両手で顔を覆って下を向く。

これで大半の色を抑える事が出来るのだ。


(何か変だと思ったら…。さっきぶつかったときに外れたんだな…)


眼帯にはアノマライト鉱石の粉末が含まれており、エーテルの影響をかなりの割合抑えてくれる。

あれが無いとどうしてもエーテルが見えすぎて酔ってしまうのだ。


「あったぞ。ほれ」

エリアンが眼帯を見つけて手渡してきた。




「サンキュー。あー、気持ち悪ぅ…」

眼帯を付け直し、一息ついたところで気になることを思い出す。

「てか俺向かいの馬車から逃げてきた人とぶつかってよく見てなかったんだけど」


「うん?」


「魔獣が転がってきたように見えたんだが」


「…!」

エリアン・ヘルの杭を回収しようと歩き始めていたエリアンの動きが止まる。


「おい?」

不自然に目を逸らすエリアンの様子を見て何かを察する。

周囲を見渡してみる。


(ん? あそこに魔法を使ったような形跡が…)

魔法が使用されると魔旋の軌道上にエーテルが残る。

テオから見るとその空間上に浮かぶ色から魔法を使用した形跡が一目瞭然なのだ。


その位置はどうやらエリアンが向かおうとしていた方向に見える。

そしてよく見ると地面が陥没している。


「…。おい、なんかあそこの地面が陥没してるけどさっきまであんなのあったか?」


「…」


「…。お前あれ使ったな? そして外したな?」


「ま、まぁ…。結果的に魔獣が転んだおかげで仕留められたんだし結果オーライだろ…」


「転ばずに仕留められていれば馬車は破壊されなかったのでは」


「…。やっぱりそう思います…?」


「…。これぶっ壊れた馬車の弁償とか請求されないだろうな…」


「…」


「はぁ…。利益出ないどころか赤字の可能性まであるじゃねぇか…」


見上げた空は今にも泣き出しそうな曇り空だった。

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