第47話 魔眼
手傷を負ったローブの人物は右手でナイフを投げるとエリアン達と反対側の階段へ駆けていく。
「危なっ! 待てこら!!!」
ナイフをかわし追いかけようとするテオをエリアンは捕まえる。
「いや、追うな。わざと深手を負わせないようにした。この程度の傷で追い返せば任務は成功だしあいつらからの報復もないだろう」
「…ッ!」
テオはその意味を理解し止まる。
この街は危うい均衡で成立している。
やりすぎるとその崩れたバランスは自分達に跳ね返ってくるのだ。
「ふっ、それにしても上手くいったな。初めて撃ったけど」
「え、そうなのか? 見た時に慣れないと難しそうだなって感じたからてっきり撃った事あるのかと思ったぜ」
「ふふふ、前に氷の狙撃を再現した魔法具を開発しようとしてたからな。なんとなく理屈的にこんな感じだろうってのはあったんだ」
「まぁそのときは軽量化しようとするとどうしても砲身が吹っ飛んでうまくいかなかったがな」
(こいつちゃんとしたの撃った事無いのになぜいけると思った…)
黄色の信号弾を放ちリネット達に会敵を知らせる。
階段を降りているとレオンが駆けつけてきた。
「敵はどこですか!?」
信号弾の意味はある程度共通だ。そのため状況を察して飛んできたのだろう。
「手傷を負わせて追い返したよ」
「おぉ。そうですか。良かった。殺してしまっても面倒な事になりかねないですしさすがです」
「いろいろ噂のイメージが先行していましたが長らく学術院お抱えの民間として立ち回られているのは伊達ではありませんね!」
(エドガーめ…)
「今度困った際には是非とも僕から相談させてください!」
ノーマンの仮面を貼り付けたような笑顔ではなく、真っ直ぐなその笑顔を見ていると断りにくさを感じる。
「勘弁してくれ…。学術院からので手一杯だよ…。まぁ暇なときなら考えてもいいけど」
「ありがとうございます!」
(また面倒くさい依頼が来るルートが増えてしまったのでは…)
テオの心労が増えたのだった。
◇
――工場側。
「黄色の信号弾です!」
「周囲を警戒せよ!」
「あの雇われのやつらが狙撃手を見つけたのか?」
にわかに慌ただしくなる護衛。
一団は二番目の工場の面する大通りまで出ていた。
アノマライトの影響もあり護衛対象10mほど後方を進行していたリネットとブランシュも止まり、防弾トラス前方防壁の影に隠れる。
リネットとブランシュは氷塊砲を構える。
2人とも物理の弾、火薬射出モードだ。
重い防弾トラスを動かせるのはリネットのみのため、極力オド消耗は避けるよう事前に話し合っていた。
鏡を取り出し前方を確認するリネット。
続いて左右も鏡で確認する。
「何もいませんねぇ」
リネットは防壁から突き出している手に風を感じた。
前方の川の方から吹いているようだ。
「…ッ! 何かいるぞ!!!」
「ッ!?」
ブランシュが何かに気づく。
「前方…川の方に何かいるぞ!!!」
ブランシュが防壁の影から叫ぶ。
周囲を警戒していた護衛が一斉に川の方向を向く。
「あれは?!」
巨大な一つの目が浮いている。
そして隣にもう一つの目が現れた瞬間だった。
前方防壁に背中を預けていたリネットとブランシュが、背後からの強烈な衝撃で内側に押され前のめりで倒れ込む。
一体何が起きたのか…
リネットとブランシュの目が合う。
次にうつ伏せの体勢から頭を低くしたまま振り返り、防壁前方へ目をやる。
車輪の下から伝う大量の赤い液体が視界に入る。
最悪の事態が起きてしまった事を悟り、思考が停止する。
思わず起き上がろうとするリネットにブランシュが飛びつき、再び2人は前方防壁の影に入るのだった。




