第45話 鉄の箱
「美味いなこれ。残り物だからまずいのかと思ってた」
テオが良い意味で期待が裏切られたと喜ぶ。
エリアン達は土手に座ってサンドイッチを食べていた。
時間に余裕があったため周辺でまだ空いている店を探していたところ、ちょうど人数分のサンドイッチが残っていた店を見つけたのだ。
「えらい静かだな。何かあったか?」
テオがエリアンに声をかける。
だいたいエリアンが物静かなときは直感的に何かを感じて推論をしているときだ。
つまり何かが起きる可能性が高い。
「…あぁ。気になることはいくつかある。が、いったんそっちは置いておき工場の立地だ」
エリアンは少し離れたところにある工場や倉庫が立ち並ぶ区画の方に視線を向ける。
目の前の川を挟んだ向かいの区画であり、橋を渡って行く事になる。
「道幅が広く直線的だ。周りは壁で射線が通りやすく障害物も少ない。ノーマンが巡回ではなく『護衛』と言ったんだ。十中八九狙撃されるだろうな」
「こちら側の土手からも狙えるし高い工場の屋上からも狙える。護衛するにはかなり厄介だ」
「どうすんだ?」
「テオ、左目で見てみろ」
エリアンはそういうと工場地帯を指さす。
「?」
テオは眼帯を外しそちらを見る。
「おぉ…アノマライトがたくさんあるな…」
テオの目に映るエーテルの無風地帯はゆうに10を超えている。
「ブラインドのやつらが好む戦法だ。大量のアノマライトを事前に仕掛け潜伏し、アノマライト間を移動してターゲットの狙撃チャンスを待つ」
「範囲から下がってアノマライト越しに撃つ事でターゲット側からは魔感が効かずに撃たれてから初めて気づくってやつだ」
「めちゃくちゃ厄介じゃねぇか。そんなの止められるのか?」
「どんな戦法にも弱点はある。まずアノマライトの範囲内では狙撃出来ない。魔感も効かない。そうなると目視に頼る事になる」
「なおかつターゲットとアノマライトを挟むという事は後方にそれなりのスペースも必要だ。更に潜伏しているポイントもアノマライトのある位置だからかなり限られる」
「なるほどねぇ。つまり移動か潜伏にしか使えないポイントと狙撃も可能なポイントが存在すると」
「ルートが分かればかなり絞り込めるわけだ」
「そういう事だ。ただ、対策されると分かるとやつらはアノマライトを囮にして純粋に気配を消してくる事もある」
「まぁこのへんの事を言い出したらキリがないから、いったんは正攻法を取るぞ」
「ノーマンから護衛のルートは共有されているんだろ?」
「あぁ、俺が見る限り狙撃に使えるのは3箇所だな。しかもどれも同時にはポイントとして成立しない」
「視察の移動に合わせて俺とテオはこのポイント付近を移動するぞ」
「リネットとブランシュは…あれを借りるか」
「「あれ?」」
◇
――数分後。
「あれだ。レンタルトラス」
エリアンは街に到着した際に見つけていたようだ。
「なんだあの四角いのは…?」
ブランシュが不思議そうに大人がすっぽり収まるほどの立方体状のものを見つめる。
車輪がついており、どうやら押して進むらしい。
その進行方向の側面に鉄の壁が備わっており、進行方向の前後は腰ほどの鉄の壁、上部は骨組みのみだ。
後方は開閉式になっているように見える。
「あれは防弾トラスと呼ばれているものだ。要は台車付きの移動式盾だな」
「はぁあ。初めて見た」
「だろうな。帝都が他部族と交戦する際に外に持ち出すか、こういう護衛の際に帝都内で使用されるかだ。シルヴァレムの人間がお目にかかる機会は無いだろう」
「これを押して護衛するんだ。車輪には魔法具の補助も付いてるから、リネットが使用して2人で押せば大した重さにはならないだろう」
「途中でオドが切れたら地獄だな」
ブランシュが不穏な事を言う。
「そういう事言うと本当になりそうだからやめてくださいよぉ…」
一行は防弾トラスと共に指定地点へ向かった。
◇
――指定地点。
一人の男が立っていた。
「なんか…。めちゃくちゃ雰囲気が怪しいんだが…」
テオが怪訝な表情をするのも頷ける。
その男はローブを被り口元も隠している。
男だと分かるのは、いや、男に見えるのは、その体格だ。
筋骨隆々なシルエットがローブ越しに分かる。
背も高い。
「これは非正規だな…。ノーマンめ…」
エリアンが何かを察する。
「はじめまして。学術院のノーマンから依頼された仕事で来ました」
「…。君たちか。ノーマンから聞いていたよりまともそうだな。私は査察官だ。裏のな」
「案内しよう。着いてきてくれ」
(あの野郎どんな紹介しやがったんだ…)
エリアン一行は男の後ろをついて行く。
「なんだかあの方見覚えがあるような…」
後方から防弾トラスでトロトロと後を着いてくるリネットが査察官の方を見ながら呟く。
「裏の査察官に知り合いがいるのか? そもそも顔も見えてないようだが…」
ブランシュが怪訝な顔をする。
「ハッ。もしかして筋肉か? ムキムキなやつが好みなのか?」
「うーん…。確かに良い筋肉してますねぇ。でもあの筋肉には見覚えが無い気が…」
「え、リネットって筋肉が好きだったの? 同い年くらいの女は割とノーマン見たらキャーキャー言うのに道理で」
テオが納得顔をする。
「私も今まで気づいてなかったですがもしかしたらそうなのかもしれませんねぇ…」
「何アホな会話してんだよ…。緊張感持て…」
エリアンが呆れ顔をする。
そうこう言っているうちに目的地の近くへ来たようだ。
橋を渡り工場地帯へ差し掛かるところで、数名の人影が見えた。
どうやら鎧を着た兵士4名と軍服の男2名だ。
「あいつらだ。私はここまでの案内を頼まれただけだ。あとは本来の仕事をする。では」
そう言い残すとローブの男は路地の方へ消えていった。
「なんだ? 合流するとこまで着いてきてくれるんじゃないのか?」
テオがわけが分からないという声を上げる。
「だいたい想定の範囲内だ。たぶん護衛対象は俺達の事を把握してないんだろう。ノーマンめ…いろいろ覚えとけよ…」
エリアンには状況が分かっているようだ。
ちょうどそのとき向こうから声をかけられる。
「お前達何者だ?」
「すいません、学術院の依頼で護衛と聞いてきました」
「学術院の? 聞いてないぞ?」
「やっぱりか…。ちょっと話してくるから待ってろ」
エリアンが他のメンバーにそう言ったとき。
「うえっ?!」
リネットが急に声を上げ立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「台車が…補助が止まりました…」




