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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
帝都アルレウスを彷徨う幽霊

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第39話 非合法組織

水路の人影に慎重に駆け寄る。


「狙撃のようでしたが状況どうですか?! こちらは全員無傷です!」


顔が視認出来る位置まで来たところで声をかける。

伏せていた人数は6名。

狙撃があったと思われる堤防側に氷で壁を形成している。


「2名撃たれたようだ。1名は…見ての通りだ…」

エリアン達が来た事で敵の撤退を察したのか、伏せていた軍部の面々が数名立ち上がる。


1名は足を撃たれている。

その隣で1名が伏せた状態で応急処理をしている。


もう1名は頭部を撃ち抜かれている。

腹部からも出血があるようだ。


「この亡くなっている方は高官ですか?」


「あぁ、今回の視察のリーダーだ」

そう答えたのは先程話をした軍部の人だ。

近くで見ると若い青年のようだ。


「弾は氷…ですかね?」


「そのようだな。クソッ!」


氷塊を使った非合法組織の狙撃部隊は軍部の間でも有名である。

そもそも元は軍部の技術なのだ。

軍部系列の高等部で兵科毎にカリキュラムが異なるが、魔法に特化した課程、魔士課程の中で氷結または風流操作の素養がある者が訓練を受ける。


「おそらくハウンドですかね。一応他チームの可能性もありますが…私達はアノマライトを検出出来るのですが、対岸からは特に検出されませんでしたのでブラインドではないですね」


「なるほど。確かにそうだな」

「少し場所を変えいくつか質問させてもらえるかな」

周囲では応急処置や報告、現場保全のためいまだ騒然としている。

この青年はこの中では2番目に偉いのだろう。

近づいていく前も周囲に指示を出していたように見えた。




「答えられる範囲で構わないが、あなた方は非合法組織だったりするのかな」


「いえ、一応合法のはずです。やらされてる事も犯罪ではない…はず」


「普通の民間企業の人間には見えないが…」


「犯罪行為はしてないはずですがスレスレの事はいろいろありまして…そっち側にも詳しくなってですね…」

少し口ごもるエリアン。


「ふぅん…。まぁグレーな民間も多いし今はそこは深掘りするつもりはない」

「ひとまず民間であれば正式に事情聴取の要請を出せるよう、住所を教えていただきたい」


「わかりました」


紙とペンを手渡され、住所と工房名を記載する。




「ねぇエリアン。ハウンドとかブラインドってなんですか?」

隣で話を聞いていたリネットが尋ねる。


「えぇと、非合法組織の中でも名の売れてる狙撃部隊だよ。有名なのが4チームあって、それぞれ狙撃スタイルの特色が異なっていてある程度予想がつくんだ」


「えぇ…。非合法組織なのに有名って…。取り締まられたりしないんです?」


「そこは暗黙の了解みたいなもんだ。取り締まれば非合法組織全体と報復の応酬になっちまうからな」

「あ、書き終わりました。どうぞ」

軍部の青年に紙とペンを返す。




「ありがとう」

「…ん? エリアン工房?! まさかあなたが噂の…?」


「…? あまり噂になる心当たりが無いのですが…」


「実験のためと称して学術院の倉庫を爆発で半壊させたり、アノマライトの手持ちが無いからといって始まりの壁に魔法具を射出しようとしたり」

「とにかく思い出せばキリがありませんが、直近だとナウマリスで城壁の一部損壊、建築物10数棟が全半壊、広場の石畳を半分吹き飛ばす要因を作り、公文書を偽造したという」


「違うんですあれはですね…」


「うちのエリアンが申し訳ございませんでした」




――数分後。


「やっと戻ってきたか。どうだった?」

そこまで時間は経っていないはずだが、気になっていたのであろう、テオが急かすように問いかける。


「1名死亡、1名負傷。死亡者は頭部と腹部に1発ずつ。負傷者は足に1発。負傷者は命に別状は無さそうに見えた。明日軍部が調書を取りにくるようだ」


「へぇ。軍部に来いとか言わないんだな」


「まぁ身元を押さえておくのと、いざとなればそのままガサ入れするつもりなんじゃないか?」


「ふーん。過去にもいろいろやらかしてるし別件でしょっぴくつもりじゃないだろうな…」


「いやどれの事を言ってるのか分からんが全部事情があってやってるから仕方ないだろ…」


「こういうときに日頃の行いが悪いとつらい…」


「そうですね。エリアンのおバカ…」


「お前ら言いたい放題だな…。ひとまずテオはノーマンに知らせに行ってくれ。俺とリネットとブランシュはいったん指定の時間までは巡回をするぞ」




テオは緊急時の移動手段として積んでいた車輪付きの板を取り出す。

空気を噴射する魔法具を推進装置として使う手軽な乗り物だ。


「じゃあ行ってくる」


「片手しか使えなくてバランス取りにくいだろうから、スピード出しすぎて転ぶなよ」


「分かってるよ!」


勢いよく道の向こうへ消えていくテオを見送った後、ふと対岸を見たブランシュが何かに気づく。


「対岸に人影があるぞ」


ブランシュのようにローブを被り、ただこちらを見ているようだ。


「あぁ、あれは査察官だな。非合法の」


「非合法の査察官?」


「軍部や学術院が非合法の実働部隊を使うって言っただろ? それを正規の査察官が成果の確認をするのはまずいよな。だからそいつらがちゃんと仕事したかをチェックするのもまた非合法組織ってわけだ」


「なるほど。うーん。本当にややこしい街だなここは」




2時間後、秘匿の連絡手段を用いてノーマンへの報告を済ませたテオと合流。

指定の時間まで何事も起きず、その日の巡回の任務を終えたのであった。

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