第38話 不測
「おい、エリアン。誰かいるぞ?」
馬車から降りて支度をしていると、先に支度を終えたテオが水路の方を見て人影を発見したようだ。
水路とはいえ運河に近く、水が流れる部分は10mほどあり、奥側はすぐに堤防、手前は幅20〜30mほどの平坦な石畳のスペースがあり、その手前がまた堤防となっている。
手前のスペースは水量が多くなって溢れた際の余剰分と、平時には大きな荷物を運ぶ通路となっているのであろう。
エリアンも支度を整え水路の方を見てみると、確かに通路部分に人影が見える。
しかも5〜6人はいる。
「うん? 非合法組織にしてはなんか堂々としてるな…動きも悪くはないが手練という感じではない…」
「民間人が何かしてるのか…? でもこんな日が暮れてから…? まぁ俺達も民間人ではあるが…」
エリアンもテオも首を傾げる。
「一応魔法具は持っているな。変な音がする。だが非合法組織には見えない」
「警戒しながら遠くから声かけてみるか」
団体の方へゆっくりと近づく事にした。
………
……
…
「すいませーーーん。警備の者ですが、この辺に何かご用ですか?」
「警備だと? 俺達も警備だ! お前達こそ何者だ!」
「…!」
意外な返答にエリアンはテオと顔を見合わせる。
「こちらは学術院からの依頼で巡回をするところですが」
「学術院だと? 聞いてないぞ! ちょっとこっちに来て話を聞かせてくれ!」
「どうする?」
「まぁ行くしかないな」
「どうしたんですか?」
支度を終えたリネットがやってきた。
「何やら別の警備がいるみたいだ。話を聞きたいから来いだと。一応警戒しながら行こう」
「テオは何か異変を感じたら音響弾で知らせてくれ。俺が前、リネットとブランシュは後方を警戒しててくれ」
「分かりました」
リネットは後方からやってくるブランシュの方へ駆けて行った。
エリアンとテオは堤防を降り人影へ近づいていく。
どうやら軍部の制服を着ているようだ。
「少々お待ちください」
「はい、手違いか何かでしょう」
話し声が聞こえる。
真ん中付近にいる人物に周囲がお伺いを立てている様子から察するに、高官と部下、または護衛のようにも見える。
(軍部か。偉い人でもいるのか?)
「学術院の巡回と言ったな。手違いか分からんが、本日は軍部の視察がある。2時間程で終わるが、その間の警護は我々で行う」
「そうなんですね。こちらも全く聞いていませんでした。2時間程度であれば私達は上で待機していますね。終わりましたらお声掛けいただけると助かります」
「分かった。本部にはちゃんと学術院に通達したかどうか確認しておくよ。まぁたまにこういう事があるがしっかりしてほしいもんだ」
「そうですね。ありがとうございます。よろしくお願いします」
◇
「どうでした?」
エリアン達が戻るとリネットが確認する。
「どうやら軍部の視察があるらしい。ひとまず2時間ほど待機だ。ノーマンのやつが珍しいな。軍部の通達が無かったとしても把握してそうなもんだが」
若干の違和感はあるものの、ノーマンも自分たちと同じくナウマリスから戻ってきたばかりだろう。
確認する暇が無かったのかもなという結論に落ち着く。
そのときだった。
「…ッ!」
「伏せろ!!!」
エリアンはテオに飛びつきながら叫んだ。
(…)
「…れた! …が……」
「伏せろ!」
水路の方がザワついている。
「痛ぇ…どうしたんだ?」
不測の事態を察し小声で尋ねるテオ。
伏せながら馬車の方を見るとリネットとブランシュも地面に伏せこちらを見ている。
「全員無事みたいだな」
「魔法の気配が聴こえた。2回だ」
「まじかよ」
「…!!! 伏せろ!!」
全員再び頭を伏せる。
「どこ…。…えん…!!!」
やはり水路の方で何かあったらしい。
嫌な予感がする。
(動くべきかこのまま様子を見るべきか)
「大まかな方向が分かれば俺が見るぞ!」
テオが小声で提案してくる。
エリアンは見ていなくても360度のレーダーのように魔感の捕捉が可能だが、細部までが分かるわけではない。
テオは視認していないと知覚出来ないが、その分細部まで分かる。
「今って何記憶している?」
「火」
普段使いとしては便利だからとりあえず記憶するものナンバーワンだ。
「だったら最悪上書きしても問題ないか。まぁ距離があるからその心配は無いだろうが」
「こっから反対側の堤防の方を垂直に見て10時の方向だ」
「どこ基準で10時だよ…」
「察しろ…! 左の方のちょっと上だ…!」
「ぐぬ…」
眼帯を外し慎重に頭を上げ対岸を見る。
対岸は倉庫が立ち並んでいる。
「…」
「何も見えん」
「アノマライトは見えるか?」
「んー、それっぽいのも見えん」
「ねぇ。一体どうなってるんです?! 私にも分かりやすく説明してください! アノマライトって見えないですよね? どういう事です?」
涙目のリネットがいつの間にか匍匐前進で近づいてきている。
「えーと。確かにテオには色としては見えないんだが、逆にアノマライトによって生じる無色の円形の空間が見えるはずなんだ」
「なるほど…!」
「そんな説明今してる場合かよ! どうする?」
2発と少し間をおいて1発。
射出音は聞こえなかったが射出の際の魔旋は聞こえた…。
大型の魔法具を使用したような音ではなかった。
何より聞き覚えのあるあの音。
「遠距離狙撃か」
帝都の非合法組織には、氷塊を風流操作と合わせ音速で打ち出すスナイパー部隊が存在する。
エリアンも過去に何度か遭遇している。
狙撃は動く標的の小さな的は狙わない。
最初の2発で胴体に当てて動きを止め、最後の1発でトドメを刺し、逃走を図る。
おそらくこれだろう。
「あと3分待って何もなければ水路の方に行くぞ」
最後の1発とほぼ同時くらいに水路の方でも複数の魔法の音が聞こえた。
防壁を張ったに違いない。
3分もあればターゲットが逃げる、もしくは防衛態勢を整えるのに十分な時間である。
仕損じた状態でそのまま待っている可能性は低い。
任務失敗で撤退したと見て良い。
――3分経過。
「よし、さっき話をしにいったときのフォーメーションで見に行くぞ!」




