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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
帝都アルレウスを彷徨う幽霊

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37/61

第37話 事情

「おい、端的すぎてブランシュが引いてるぞ」


「いや、この男ならありえるという納得感がある」


「殴られたいならそう言え?」

エリアンはテオとブランシュに拳を見せる。

「まぁそうだな。厳密に言うと俺は何もしていないんだ。だが何もしてないからこそ受け入れている」

ため息をついて続ける。

「簡単に言うとクーデターを起こそうとした友人を止められなかったんだ」

悲しそうな目をするエリアンの心中を察してか、ブランシュは苦しそうな顔でうつむいた。


「友人は別に幹部ではなかったが、主要メンバーではあったみたいなんだ。俺は関係者として嫌疑をかけられて軍部の憲兵にしょっぴかれた」

「まぁ魔女裁判だよ。無関係である事を証明も出来ない。それに友人もその暴動の中で死んでしまって無実を証明しようという気力も起きなかった」

「有罪扱いだったもののノーマンの親も動いてくれたみたいでな。執行猶予ですぐ出てこられたんだ。まぁそんなこんなでノーマンの頼みは断れないんだ」


「…そう…か」


涙を流すブランシュを見てエリアンは慌てた。

「おい! 昔の話だし今はもうそんな気にしてないからそんな重く受け止めるなよ!」

無表情でクールな印象の彼女だが、意外と感受性が豊かなのかもしれない。


「もう、エリアンが悪いですよ! もうちょっと面白おかしく話をしてください!」

黙って聞いていたリネットが思わず突っ込む。


「無茶言うなよ…面白い要素なさすぎてこんな話を嬉々として語ったらだいぶヤバいやつになっちゃうよ…」


「大丈夫だ。すまない」

「変な質問かもしれないが一つだけ聞かせてくれ。今またその友人に会えたらお前は止められると思うか?」

顔をあげたブランシュと目が合う。


「…そうだな。今だったらぶん殴っても止めるね。お前の家族や周りに迷惑かかるだろって。やるなら周りから認められる方法でやれってな」

「今の俺には工房が大事な場所なんだ。捕まって潰されるわけにいかんからな。こんな…年上に敬意がないやつらしかいなくても…」


「そうか。そうだな。ありがとう」

再びブランシュの目元が光った気がした。


「敬意に値する言動をしてから言えよ」


「まったくですね」


「…(怒)」


「ブランシュさんこれ使ってください」

リネットはハンカチを取り出してブランシュに差し出す。


「いや、大丈夫だ。強くなれと言われて育ったのに少し感情的になってしまったようだ。情けないな。すまない」


「あ、ごめんなさい…」


(強くなれと言われて…か。シルヴァレムでは地位のある立場だからな。ブランシュもなかなか大変なんだろう)

リネットも同じ事を思ったのだろう。少し余計な事をしてしまったかなと気まずそうにハンカチを下げたのであった。



     ◇



「まぁ俺の話はこれくらいで…。ちょっと帝都の内情も教えておこう」

一つ咳払いをしてエリアンが話し始める。

「風の噂とかで何となく察してるかもしれんが、軍部と学術院はお互いに足を引っ張ってるんだ。まぁいろいろあるんだが…」

「主に予算の削り合いだな。帝都はインフラ整備や研究機関としてのトップの最高学術院と、軍事機関のトップの帝都軍部、この2つが互いの分野の決定権を持つんだ」

「だが予算の決定は、中央統括局っていう権威しか取り柄のない機関が握ってるんだ。建前は役割が違うが権力を持つ2つの機関の仲介なんだが、こいつらが実質トップみたいなもんだ」


ブランシュは元の表情に戻っている。

「外見だけでなく内面も複雑なんだな。アマルガムと言われているだけの事はある。シルヴァレムでは評議院があるだけだな」


「そうなんよ。俺も別に一個で良いと思ってるんだけどさぁ」


「おい、そんな事言ってたらまた捕まるぞ」

テオがニヤリとする。


「ぐ…」

「とにかくだ。統括局に対して、あいつらは不正をしてるとかお互いの専門分野の公共事業が杜撰だとか言って、予算を削ろうとしてるわけだ」

「具体的には、学術院が権益を持ってるエーテル通信網を爆破とかして『学術院のメンテナンスが杜撰だ』と軍部が言ったりだな」


「爆破?! さすがにそれは犯罪というかテロ行為ではないのか?」


「そう、だから実働部隊は非合法組織なんだ。そしてお互いに非合法組織を使って足を引っ張っているからもはや暗黙の了解みたいな部分がある」


「うーん…。なかなか理解しがたいな…。シルヴァレムでは街を守るのに手一杯でそんな事をしたら即刻処刑されるぞ」


「帝都も魔獣や他部族との戦闘があるから盤石とは言い難いんだが、それでも中央の区画に近づくにつれそういう外敵の脅威をほとんど感じずに暮らせるからな」

「外敵がいなくなると今度は内側で争い始めるのが人間という生き物なんだろう」


テオもリネットもため息をつく。


「お、そうこう言ってたら水路が見えてきたな。今回は水路周辺できな臭い動きがあるから巡回、必要があれば脅威を排除せよと学術院からのお達しだ」

「まぁ当日すぐ行けってあたり襲撃とかそういうのが今夜ある気配がしてるんだろう。交戦の可能性ありだ。そのつもりで警戒するぞ」

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