第34話 帰路
荷物を整理したエリアン一行はナウマリスの検問所に立ち寄った。
エリアンは改めて謝罪をしなければと思っていたからだ。
激戦から丸一日以上経過しているが、検問所の周辺には至る所に崩れた壁の破片が転がっており、まだ爪痕が見られる。
馬車を降り、検問所へ向かうエリアンの様子に気づいたのか、番兵が奥に向かっていく。
「お帰りですか?」
エリアンが検問所の扉の前まで来たときに、奥から笑顔で所長が出てきた。
少し驚いたがすぐに返事をする。
「えぇ。帝都に戻ります」
そして脇に転がる破片へ視線を送る。
「全力を尽くしたつもりではありましたが、町中に被害を出してしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、あなたがいなければ完全な奇襲を受けた状態になり、被害はこんなものでは済まなかったでしょう。あの時巡回で襲撃された者は重傷でしたが、それ以外に目立った死傷者が出なかったのはあなた方のおかげです」
所長は笑顔で手を差し出す。
エリアンはその手を両手で握り返す。
「突然指揮を執りこのザマで本当に心苦しい限りですが、そう言っていただけると本当に救われる思いです。帝都に戻ったら極力補償になるように働きかけますので。では」
数歩馬車の方へ歩き始めたところでもう一つ礼を言わなければならない事を思い出す。
「そうだ。紫の花の件は口止めありがとうございます」
所長は無言で頷き親指を立てた。
◇
包帯ぐるぐる巻きのテオは、馬車の中からエリアンの方を見ていた。
戻ってくるエリアンの姿がすごい申し訳なさそうにしているように見えた。
「衛兵の人達なんて言ってたんだ」
「俺達がいなかったら被害はこんなもんじゃなかったと思うって慰めてくれたよ」
「あぁ、俺もそう思うぜ。後から考えるとあの時気づけてればって思う事もそりゃあたくさんあるけどな。けどそんなの現実的には無理に決まってんだろ。最善の動きと判断は出来ていたと思うぜ」
包帯男が言い終わるとすぐさまローブを羽織ったリネットが続く。
「そうですよぉ。答えを知ってからあれこれ言うのはナンセンスです! そういうところは論理的じゃないですよねぇ」
さらにローブを頭まで被った不審者も続く。
「私も話を聞いただけだが、お前たちは良くやったと思うぞ」
次々と慰められ、エリアンも少し表情が和らいだように見える。
「あぁ、ありがとな。切り替えよう」
「御者さん、出してください」
馬車は再び帝都に向けて進みだした。
………
……
…
綺麗に整備された道が、一定のリズムで車輪の音を響かせる。
快晴のもと、窓から吹き込む風は心地よく、ナウマリスでの激闘が嘘のように穏やかな時間だ。
そういえば行きにもここを通ったなぁと思いながら過ごしていたときだった。
「そういえばさ。ノーマンから依頼書なんて貰ってたっけ?」
テオはふと思い出したようにエリアンに問いかける。
あれのおかげで迅速に魔獣への備えが出来たわけだが、あのときは寝不足で半分思考力が死んでいたためその違和感に気づかなかった。
改めて思い返すとおかしい。
嫌な予感がする。
エリアンが呆れたような顔をする。
「いやいや、学術院が役所を通さない依頼をいちいち書面化するわけないだろ。いつものあれだよ」
やっぱりか…とテオは俯く。
「お前いつか公文書の偽造でノーマンに訴えられんぞ…」
「はぁ…また帰ったらノーマンからブツブツ言われんのかぁ…」
今回の被害状況を見てもほぼ赤字だろう。
おまけに月曜からは納品が1件残っており、今回のナウマリスの件で進捗はほぼ無し。戻ったらノーマンの小言…。
「はぁ…」
ため息しか出ない。
「浮かない顔をしてどうした。あ、お前どうせ動けんだろうからノーマンの相手は任せたな」
(この野郎…!)
「あっ」
そのときテオは急にある事を思い出した。
「どうした?」
エリアンは怪訝な顔をする。
「あぁあー。あのときのエリアンは素直でいいやつだったのになぁ。と思っただけだ」
「…?」
「すまんな。うちに来て楽しかったか? 俺は」
「?!?!?!?」
「待て待てまてええええええええええええええい?!?!?!?!?」
「お、おま、おま、お前…」
「身体動かんかったけどなんか手を握られた感じがして意識が戻ったんだよねぇ」
「…!?!?」
「えっ? 手を? 何の話ですかエリアン、テオ!」
なぜか変なところに食いつくリネット。
「何でもない!!!! 何でもなあああああああい!!!!! テオ!!! 忘れろ!!!!!!」
「なんだ? アマルガムでは男同士でもそういう事があるのか?」
なぜか妄想が捗る不審者。
「お前らなんでそんなどうでもいいところに食いついてくるんだよ!!!! とにかく忘れろ!!!!! 魔獣よ来い!!!!!! 全てを破壊しろおおおおお!!!!!」




