第33話 悲哀
時は少し遡り4月5日 金曜日。
私、エドガーはナウマリスに来ている。
日はとっくに暮れているが休む暇もない。
そうというのも昼過ぎにはコーヒーを飲みながら「今回の依頼は熊だし大抵の事はあいつに任せとけば大丈夫だよ」なんて言っていたノーマンさんだったのだが。
『どうやらアノマライトを取り込んだ熊との事。市街地での戦闘にもつれ込んだものの撃破』
との連絡を受けるやいなや疾風迅雷の如し。
各所に連絡を入れ査察官の交代を半ば脅…ゴホン。
丁寧に願い出て、引き受ける事になったのだ。
移動もすごかった。
「馬車では他の査察官が先に現地到着してしまうかもしれない…!! 台車…いや、万が一事故るとまずい…これ以上の厄介事はダメだ…。よし! グライダーを使おう!!!」
長距離のグライダーは非常に疲れるから嫌なのだが、必死の形相に断れなかった。
高速で飛んでいくノーマンさんに着いていこうと無理をして何度か墜落しかけたがなんとか無事にたどり着けた。
その甲斐あって私とノーマンさんが査察官の中では一番乗りだ。
そこから爆速で被害情報の確認、都合の良い証言だけを切り取った書類作り、口裏合わせの根回し、等々、裏工作の数々をこなした。
おかげでヘトヘトもいいところだ。
だが休めない。
「エドガーくん。最悪エリアンは奴隷として遠方の都市に売り払ったとしても、テオくんやリネットちゃん達まで売り飛ばすのは可哀想だろ?」
「それにここまでやばいと我々にも火の粉が飛んでくる。極限まで帝都の補償が下りるように動くんだ」
そんな恐ろしい事を言っていた。
笑顔で。
他の査察官が書類を作ってしまうと十中八九エリアン工房の過失と判定された内容になるだろう…。
1件でも多く我々が書類を作らなければ…。
それにしてもあいつはいつもいつもぶっ壊しまくりやがって…。
ノーマンさんの頼みじゃなかったら全部過失判定してやるところだ…。
マジで覚えとけよクソ野郎…。
◇
4月6日 土曜日。
私、エドガーはナウマリスに来ている。いや、昨日からいる。
もう昼過ぎだが昨日から一睡もしていない。
おかげであらかた査察を実施しないといけないものは片付いた。
「いやぁ。こんだけやればたぶん大丈夫だろうね。後は盛りに盛りまくった報告書を作って特別報奨が取れれば…」
「エリアンを売り飛ばすくらいでギリ赤字かなってとこまでいけそうだねぇ」
「あ、熊のやばさを誇張するためにもうちょっと壁壊しとく?☆」
ノーマンさんも極限の疲労で頭がやられてしまっているようだった。
とりあえず壁を壊すのはやめましょうと言っておいた。
本当に疲れた…。
『爆弾で熊が吹き飛んだ』
『大きな樹が生えてた』
『熊から離れていたのに急に魔法が使えなくなった』
よく分からない証言がいくつもあるんだがこれは私が疲れているから分からないだけなのだろうか…。
ダメだ頭が働かない…。
そして眠い…。
これは立ったまま寝れるやつだ…。
「お疲れ。今役所に聞いてきたら仮眠室とか給湯室とか自由に使ってくれってさ」
「たぶん今から寝たら起きるの夜だろうし、帝都に帰るのは明日の朝にしようか」
ノーマンさんもフラフラだが寝場所を確保しようとしてくれていたのか。
ありがたい。
いったんこの件が片付けば、残るはシルヴァレムの探し人の件か。
どこにいるのやら…。
ひとまず寝てから考えよう。




