第30話 部屋干し
4月6日 土曜日。
日差しの眩しさでエリアンは目を覚ました。
(この町に来てから初めて朝日を見たなぁ)
そんな事を思いながらベッドの方を見る。
少女は昨夜見たときと同様、浅い呼吸のまま静かに眠っている。
そして音を聴く限りでは一向に回復している気配がない。
(これは確かにおかしいな…)
オド不足における魔感の喪失等の症状は、時間と共に体内で生成されるオドが一定値を超えると回復する。
エリアンもあの後1時間ほどで魔感が回復していた。
だがこの共生者はオドが全く回復している気配がない。
雨で日光が足りなかったときとはまた違う。
(どうやら体内のオド生成自体が止まり、仮死状態に陥っていると見た方が良さそうだ)
そのときふと昔読んだ共生者に関する記述を思い出す。
『帝都軍は、捕えた共生者の捕虜を地下牢へ閉じ込めていた。日光から力を得ると言われていたからである。彼等は日に日に弱り立ち上がる事も出来なくなっていった』
『だが移送のための連行中、地上で一瞬の隙を突いて1人の共生者が陽の光の下へ飛び出した。発光したと思った次の瞬間、それまでの弱りきった姿が嘘のように強大な魔法を放ってきた』
そして少女が日光を浴びた直後に浮かんだ葉脈のような光る模様の事を思い浮かべる。
(この少女も、少なくともあの瞬間まではかなり弱りきっている音がしていた。おそらく同一の事象で、共生者の特性なのだろう)
過去の記録にあった共生者が、その後どうなったのかは分からない。
ただこの少女が日向ぼっこをしていた事からも、通常時は時間をかけて光合成をしているのだろう。
そうなるとあの葉脈の現象は、緊急時のものと考えるのが自然だ。
(つまり緊急時の生体反応を発動した代償で、仮死状態になった…という事なのだろうな)
そうこう考えていると、隣の部屋からリネットがやってきた。
「あ、エリアン起きましたねぇ。おはようございます。テオもさっき起きましたよ」
包帯ぐるぐる巻きのミイラ男もやってきた。
「おす。全然覚えてないけどなんとか倒したみたいだな。ある程度はリネットから聞いたぜ」
ミイラ男が動いている姿を見て少しほっとする。
「おぉ。軽傷で済んだとは聞いてたけど歩けるのか。よかったな」
「良くねぇよ! あちこち痛いんだぞ!! 今もだいぶ痛い!!!」
「じゃあ寝とけよ…」
テオは眠る少女の方を見る。
「バカでかい魔獣を倒した英雄の様子を見に来たんだよ」
「あぁ。見ての通り全然目を覚まさない。どうやら仮死状態っぽいんだ」
「まぁ座れよ」
エリアンが窓際からもう一つ椅子を持ってくると、テオはゆっくりと慎重に、時折うめき声を漏らしながら腰掛けた。
テオが落ち着いたところで、エリアンはさっき考えていた緊急チャージの事を話してみる。
「うーん。それはあれじゃねぇか? やっぱ日光に当ててやる必要があるんじゃ?」
「確かになぁ。自家発電機能が停止してるが光合成の機能まで停止しているとは限らんしな」
テオの言うことも一理あるように思える。
「よし、やってみるか」
「…」
椅子から立ち上がったもののすぐに黙り込んだエリアンを見てテオが尋ねる。
「どうした?」
「いや、どう当てるのがいいのかなと」
テオも数秒考えたがすぐに閃いたようだ。
「そうだ、布団干すみたいに干してみれば?」
「ふむ。そうしてみるか。でも俺が触るとリネットがうるさいしなぁ。よし、リネットにやってもらおう」
「リネットー! ちょっとこっち来て手伝ってくれよー!」
「はぁーい。ちょっと待っててくださぁい」
エリアンは椅子を二段重ねたものを少し間を空けて2つ並べ、それらの椅子にまたがるように共生者の杖を置く。
杖の位置には窓からの光がばっちり当たっている。
「おぉ、良い感じじゃねぇか」
テオも納得の出来のようだ。
「なんですかー?」
隣の部屋で朝食の準備をしていたと思われるリネットがやってきた。
エリアンは杖のところを指さしながら少しウキウキした表情でリネットの方を向く。
「ちょっとこの共生者ちゃんをここに干してみてくれない?」
「お前ら正気か?」
リネットはゴミを見るような目で2人を見つめた。
◇
「絶対おかしいですよね? 人を干すとか絶対間違ってますよ?」
「いやいや。共生者って植物みたいなもんだからさ。たくさんお日様に当ててあげなきゃダメじゃん」
「いやいやいや。でも人間ですよね? おかしいですって!」
「いやいやいやいや。いけるいける」
そんなやり取りを経て、少女を干してからおよそ1時間が経過した頃。
やる事が無く、男2人は干された共生者を眺めていた。
試しに干された体勢を体験したリネットからさすがに危ないという猛抗議を受け、ベッドを移動させるだけという事で落ち着いた。
そのため絵面的には大して面白みがない。
「うーん、全然回復してないな」
「あぁ、朝見たときと同じですごい薄い色してるわ」
変化の無い少女の姿にどうしたもんかと次の策を考える。
そして数分後にエリアンが閃く。
「あー、もしかして水じゃないか?」
「あー、ありえるな。水あげてみようぜ。でも飲めるのか?」
「飲む? 何言ってんだ。植物だからかけてあげなきゃだろ」
「そっか。てかかけるよりも、根っこを水につけてあげた方が効果的じゃね?」
「確かにな。となると足を水につければいいのかな」
「おう。やってみようぜ」
………
……
…
「どうですかぁ? 回復してそうですか?」
片付けをしていたリネットが様子を見に来る。
寝たままベッドの端に膝の位置までずらされ水を溜めた桶に両足をつけられている少女と、その様子を観察する男2人という、衝撃の構図を目の当たりにした。
「お前ら正気か?」
男2人はリネットに殴られ、少女を元の位置に戻した後、ガーゼに含ませた水を少しずつ経口摂取させる事にしたのだった。




