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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
交易港ナウマリスを覆う暗雲

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第27話 不審者

テオの腕に触れる。

目を閉じ音を聴く。


次第にテオの音が小さくなっていき、そして無音となる。

「こんな状態なのにすまん。ちょっと負荷かけるぞ。耐えてくれ」


自身のオドをフル稼働させ、静寂に包まれたテオに対しエーテルを流し込む。

刻まれた魔旋の上をエーテルが流れる音が聴こえる。




極度に圧縮された気流が大気中に含まれる可燃性成分を強制的に一点へ集積していく。

空間そのものが軋むような微振動が足元を伝い、形成された陽炎のような大気の渦が上昇していく。


エリアンは上空を指さしながらリネットが隠れた方向に向かって叫ぶ。

「リネット!!! 火ぃ!!!!」


様子を伺っていたリネットはその言動に一瞬戸惑う。

「ひ?」

が、すぐさま気づく。

「…火?! あぁ!」

準備していたフレアガンの中に火炎弾があった事を思い出し、リネットは意図を理解した。


「うぉりゃっ!」

エリアンの指さす方向に出来た大気の渦を目掛け火炎弾をセットしたフレアガンの引き金を引く。

その瞬間、乾いた破裂音と共に空気を切り裂く鋭い飛翔音が響いた。


赤い尾を引くその光点は、上空に滞留する見えないガスの海へと吸い込まれていった。




エリアンは真下から祈るようにその軌道を見守る。


(いけ…!)


(…まだか…?)


「いけぇえええええ!!!!!」




世界から音が消え、視界が真っ白に焼き切れた。上空に滞留していたガスが一斉に連鎖発火する。

それは単なる砲弾の破裂ではない。大気と混ざり合った膨大なガスが瞬時に燃焼・膨張する事で引き起こされる、燃料気化爆発だ。


上空で発生した莫大な熱エネルギーと爆風は、ナウマリスを覆う不可思議な雲を同心円状に吹き飛ばす。

そして遅れてやってきた轟音と衝撃波に、エリアンはたまらず目を閉じ顔を手で覆った。


………


……


…


まだ轟音の残響が聞こえるが、周囲から発せられていたエーテルの音が聴こえない。

どうやらオドを使い果たしたようだ。

魔感はオド由来の感覚であるため、オド欠乏による一時的な魔感喪失である。


目を開けると久々に感じる日差しに思わず目を閉じる。

再びゆっくりと目を開け上空を見上げると、雲に空いた大きな穴から数日ぶりの日光がナウマリスの広場へと降り注いでいた。


(よし! 成功だ!!)




視線を落とすと死人のようにピクリともしない少女にも日光が当たっている。


「動いてくれ…頼む…」


少し指先のあたりが動いたように見えた次の瞬間だった。

突如として少女の首のあたりから葉脈のようなものが出現する。

発光しながら全身に巡り、やがて焼き切れるかのように消えていった。


音は聴こえなくとも分かる。

彼女の顔には生気が戻っている。

活動出来る水準までオドが回復したのだろう。

おそらく非常時の生態反応だ。

書物で読んだような気がする。




おもむろに少女の右手が動く。

爆風の影響で彼女の杖は右手の近くに転がっていたが、そちらへ視線を向けぬまま、位置が分かっているかのように杖を手に取った。


(動いた…!!)


顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

やや砂にまみれてはいるが、日光に照らされるその姿は神々しさをも感じさせる。


緊張と安堵が入り混じる中、エリアンは声をかける。

「ようやく動いてる姿を見れたな。あっちを見てくれ」


少女はまだボーッとしているようだが、エリアンが指をさした方へ顔を向けた。


「あの熊を倒さないとこの街が危ないし、あいつが巣に戻るとまた雨続きになってしまうんだ。あいつを倒せるか?」


「…」

少女は熊を見つめたまま身動き一つしない。


(あれ? 止まった?)


「…?」

少し首を傾げたようだ。


(…? なんだ?)


何かを感じたのか、少女はエリアンの方へ向き直った。

そして顔を近づける。


(え、何? 何何???)

さっきまではボロ雑巾のようで気づかなかったが、よくよく見ると綺麗な顔立ちだ。

(まさか日光を浴びせてあげたお礼に…キ、キスを…?!)


どんどん近づく顔。


高まる鼓動。


(おいおいこんな状況で何を期待しているんだ俺!!)


スンスン


(…?)


スンスンスン


(…?!?!?)

(めっちゃ匂いを嗅いでるぅうう…?!?!?!)


スン…?


(…?)


次第にエリアンの顔から降下していき、右胸のあたりで顔が止まったと思ったそのときだった。

上唇を持ち上げ口が半開きになったまま目を見開き呆けたような表情を見せた。


(突然の変顔?!?!?! 何? 何がしたいの?!?!?!)


そしてその地点を目掛けて白い手が伸びてくる。


(?!?!)


華奢な指がエリアンの右胸付近に付着した長い毛をつまみ上げる。


(毛??? さっきの熊の毛か…??)


そして食べる。


(食べたああああああああああああああああ!!!!!!!!)

(いやあああああああああ!!!! 若い子意味分からん!!!!!!!)

(キスしてくるのかと思ったら匂いかぎ始めて、匂い嗅いでると思ったら変顔し始めて、変顔したと思ったら毛を食べたあああああ!!!!!)


パニックのエリアンを他所に彼女は立ち上がる。


「ペッ」


(今度は毛を吐いた?!?!?!?)


少女は熊の方を向き、怒声を発した。

「お前かあああああああああああ!!!!!!!!」


(急に叫んだああああああああああああああ!!!!!!!!!!)

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