第26話 最強の起動者
――帝都アルレウス 最高学術院。
先日の件がありノーマンは憂鬱な午後を過ごしている。
あれ以来シルヴァレムの行方不明者に関する進展が無い。
更にエリアンに任せたナウマリスの件も進展が無い。
(探し人の捜索を表立ってすると面倒くさい人たちに勘付かれるしなぁ)
(ナウマリスの調査も俺が表立って動くとエリアンへのペナルティとしての意味合いが薄くなって上からやいやい言われそうだし)
あれこれ考えはするが、結局今は動かない方が良いという結論に達する。
ため息をついてコーヒーを口に運ぶという、本日何度目か分からない繰り返された動作をしたときだった。
技術監査部への問い合わせがあったと呼び出し受けたエドガーが戻ってきた。
「ノーマンさん。ナウマリスからエーテル通信でエリアン・クラウスという者があなたの名義での依頼で緊急要請を行ったとの連絡がありましたが…」
「ンッ……ブッフゥッ!」
口に入れたばかりのコーヒーを盛大に吹き出すノーマンを見てエドガーは察する。
「その反応はやっぱり…」
「あぁ…。あいつその手を使うときは事前に俺に言えって何度言えば…」
「だがナウマリスの方は進展があったという事だな。嬉しいような悲しいような…」
ノーマンは複雑な心境でハンカチを探す。
「…。タオル持ってきますね…」
◇
「ハァ…。ノーマンさん、いつもあの男にやばめの依頼投げてますが、私にはどうも信用出来ないというか信頼出来ないというか…」
ノーマンのテーブルを拭きながらエドガーが懸念を述べる。
「わかる…わかるよ…」
ハンカチで服に付いたコーヒーを拭きながらノーマンも同意する。
「いくら旧知の仲だからといって、そこまで贔屓にする必要あります? 依頼を失敗したらあなたの評価に関わるんですよ?」
「いつもこういう無茶な事するし…。正直あなたには上に行ってほしいですしちょっと付き合い方を考え直された方が良いのではないです?」
「ありがとう。俺は良い後輩を持ったよ…。でもねエドガー君、大丈夫だ。うちも軍部もお抱えの非合法組織がたくさんあるのは知っているだろ?」
「えぇ。表立って動けない案件を秘密裏に依頼する便利屋みたいなもんですよね」
学術院と軍部は帝都の二大巨頭だ。
そして表向きは帝都の発展と利益のために協力しているように振る舞っている。
だが裏では予算争いや権益の奪い合いでお互いに出し抜こうと、非合法組織を使った小競り合いを繰り返している。
「うん。中には権益にまで絡んだかなり力を持った組織があったり、個の力も戦務1級の実力者がいたりする」
「えぇ。聞いた事あります。魔女や阿修羅が有名ですよね」
「そうだね。そしてエリアンは彼等と渡り合える実力を持っている。資格は2級だけど1級に限りなく近いと俺は思っている」
「えぇぇ!?!? あんなだいぶ胡散臭いしやる気が見られないし信じられない事やらかすやつなのにですか?!?!」
「正直すぎるなぁ…。まぁそうなんだけどね…」
ノーマンはボロクソに言われる友人のフォローが出来ない事に少し悲しみを覚えつつ続けた。
「あいつはオドの体外操作のエキスパートだ。上層部でも、発現者を凌駕する唯一の起動者と目されている」
「…ッ!」
オド操作のエキスパート。エドガーはその意味を理解している。
通常、エーテルはオドとの距離と共振力により、より高い共鳴効果を起こし操作という名の動作干渉を行う。
魔士や魔戦士が戦う際には、自らが操作出来るエーテルをいかに多く支配下に置けるかが勝負となる。
そしてそのオドの体外操作を極めると、他者の支配下にあるエーテルを根こそぎ抑える事さえも出来るのだ。
抑えるだけならまだしも実力差次第では一方的にエーテルを操作されてしまう。
エーテルを抑えられる。つまり魔法を使う者にとっては真空中で息をしようとするようなものである。
「まさか…あんなのが…」
予想外の実力に驚きを隠せず喉の渇きを覚え、エドガーは手元のコーヒーに手をかける。
「そして彼のところにはテオくんがいる。実は彼は体現者なんだよね」
「…ッ!!! ……ブッフゥッ!」
「知っての通り体現者はいわば人間レゾナイトだ。知覚した魔旋を身体が記憶し、エーテルを流す事で魔法が発動する。レゾナイトとの違いは、誰でも扱えるわけではないという点だ」
「自身がエーテルを流す分には問題無いが、他人が流そうとすると体現者のオドが干渉してエーテルの操作が阻まれる」
ノーマンがそこまで語ったところで、コーヒーを垂れ流しながらエドガーが続けた。
「…ただしそこにオドの体外操作が高いレベルで実現出来る者がいるとなると…」
「そう、他者のオドに対し逆位相のオドをぶつけてエーテルへの干渉力を無効化する事が出来る」
「つまりテオくんとエリアンが一緒にいれば、あいつは何でも魔法具を使えるって事にもなるんだよね」
「…」
エドガーは言葉を失う。
「まぁアノマライトが唯一の天敵かなぁ。それが絡んでくるときついかもしれないけど、今回の依頼は熊だし大抵の事はあいつに任せとけば大丈夫だよ」
ノーマンは穏やかな表情で再びコーヒーを口に運んだ。




