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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
交易港ナウマリスを覆う暗雲

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第25話 最強の兵器

(この感覚はなんだ…。俺は何かを知っているのか…?)


理由も分からずに突如感じた恐怖のような感覚の正体を思考する。


(そうだ、こいつは共生者だ。確か…)


昔読んだ書物の内容を思い出す。


共生者は植物と共鳴するが、それは一族が長い年月をかけて共生してきた単一の種のみ。

長年共に過ごす事でその植物のオドや流れるエーテルの性質を体が学習する…とか書いてあった。


そしてそれはレゾナイトも同様で、植物の傍にあると長い時間かけて変質し、その特性を限定的であるが引き継ぐ…みたいな事も。


つまりリネットの首飾りのレゾナイトは、何かの植物の性質を引き継いだもので…。

そのレゾナイトがこの少女に共鳴しているという事は…。

この首飾りのレゾナイトは、少女が共鳴する植物と同じ性質の波長を発しているって事になる。


(紫…。まさかな…)


60年以上前のシルヴァレムとの紛争に関する歴史の話が頭をよぎる。

帝都のアノマライト兵団を3人で壊滅させたという不思議な特性と超火力。

宗主三家は鳳凰木・紫雲木・火焔木の三大花木と言われる植物と共鳴した者達で、あの紛争を経験した者は「蒼・紫・橙の悪夢」と呼んでいたはずだ。


手のひらが汗ばむのを感じる。




(いや、宗主三家は当主に限らず一族がシルヴァレムの要人だったはずだ…。こんなところにいるわけがない…)

(それにリネットは首飾りの事を何か全然違う名前で言ってた気がする…。毎回酔っ払ったときにしか言わんから記憶が…うーん、うーん)


『ジャガジャガのくびががりぃ!!!』

って昨日は言ってたな…。


その前…。


『ボッタクリだって隣のマルタさんといっつも話しててぇ』


いや、こんなときにマルタさんの話を思い出してる場合じゃない…集中しろ!!!

てか昨日とかじゃなくてもっと前…先々週あたり…うーん、うーん…




『ジャカランダの首飾り!!』


(ジャカランダ…! そうだジャカランダだ)

(やっぱり全然違うじゃないか…ちょっとびびったぜ…)


(…!!! いや…)


「ジャカランダ…別名…紫雲木…」


喧騒が遠くの出来事のように感じた。



     ◇



『恐怖とは正体が分からない事から来るものだ。大抵のものは正体が分かれば怖くもなんともない。知識とはその正体を探る手助けになるのだ。そのために学びなさい』


勉強嫌いな訓練校時代に先生からそう言われ納得したものだが、今は知識が仇になっているとしか思えない戦慄を覚えている。

(知らなければよかった…。いやでも…)


アノマライトでも防げない共生者の魔法であれば、あの魔獣を撃破出来るのでは。

一瞬頭にこの共生者の力を活用出来ないかという考えがよぎる。


(だめだ…。落ち着け…)


(こいつが共生者としての能力をきちんと使いこなせるのかは分からないんだ)

(それにあのクソ酔っぱらいの勘違いで、このレゾナイトは全然違う植物の特性だったとかもありえる。紫の花とかいっぱいあるしな)


少し深呼吸する。


(そうだ。エーテルの問題だってある。あの超高火力は高密度なエーテル環境であるシルヴァレムだからこそ実現するとも書いてあった気がする)

(更には杖だ。オドを供給する事で生命を維持しているといっても、それが本国で実際に植生している植物の100%の力を維持しているとは限らない)

(更に更に…こいつはここ連日の雨天でオド供給が追いつかず完全にガス欠状態だ。目覚めたとしてもすぐには動けんだろう)

(そもそもそんなやばい兵器みたいな力をこんな町中で使ってみろ…ノーマンですら即首を吊るレベルの損害が出かねんぞ…)


次から次へ思いつく不確定要素に少し安堵する気持ちもある。


だが、こんなにも不確定要素が多いにも関わらずだ。

先程まで恐怖すら感じていたにも関わらずだ。


(俺は今こいつに期待してしまっている…!)


先程までは正体の分からない恐怖、そして今は正体の分からない期待。

我ながら忙しいなと少し失笑する。


(この期待感はなんだ…? なぜいけそうな気がするんだ…? この不思議な魔感のせいか…?)

(伝説の剣みたいに強力な希少武器を手にして冷静な判断が出来なくなっているのか…?)


改めて前方へ視線を送る。

第二陣が食い止めてはいるが、いろいろな制約の下で消耗戦が手一杯だ。

いつ均衡が崩れ多数の死傷者が出てもおかしくない。



『可能性があるならやってみろ』

再び父親の言っていた言葉が頭をよぎる。


(うるせえよクソ親父)


少し笑いながらテオの方を向く。

「テオ、すまんな」

そう呟いて手を伸ばした。

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