第24話 窮地
射出モードを再び火薬モードへ切り替え、後方に素早く左手を差し出す。
ほぼ同時にテオが氷塊を乗せる。
「避けとけ」
テオへ短く指示を出す。
(間合いは2歩…!)
魔獣がこちらに向かい1歩目を踏み込む。
大量の網に絡め取られたその動きは防壁へ向かってきたときと異なり非常に鈍く見える。
(距離を詰め、直前で立ち上がり、大ぶりのパンチを繰り出してくるはずだ)
(足元に出来た空間に潜り込み、心臓を目掛けてこいつをぶち込んでやる!!)
動きは鈍いがその巨体が迫る迫力に思わず引き金を引いてしまいたくなる気持ちを抑える。
(焦るな。無駄撃ちは死あるのみだ。落ち着いて引きつけて相手の攻撃を誘…)
(…!!!)
2歩目が到達するよりも早く黒い壁に視界が覆われた。
………
……
…
(…か?! …お…)
(…つけろ! ……やく! ……)
「…ッ」
『ガァァァアア!!!』
ハッ!!!
一瞬意識が飛んでいた…!
どうなった…?
魔獣が叫びながら土嚢の方へ走っている…?
あれは第二陣…か…?
やけに視線が低い…今座り込んでいるのか…
少し頭がボーッとするが思い出してきた。
(そうだ…。あの熊野郎タックルしてきやがった…)
(間を詰めにきたと思ったが、まさか助走1歩であの距離を…。改めて想像以上の身体能力だ…)
咄嗟に体を捻り、破壊的な力の直撃は免れたが、それでもかわしきれず左肩に接触してしまった。
どこも折れてはいないようだ…
すぐ前方を見るとひしゃげた筒状のものが…氷塊砲か…?
あれが潰れたおかげで衝撃を吸収し無事だったのか…?
そのとき昔父親と話していたときの言葉をふと思い出す。
『親父の作る魔法具ってすぐ壊れるよな。もっと丈夫に出来ないのかよ』
『馬鹿野郎。そうなってるのはちゃんと理由があるんだよ。昔は頑丈に作ってたが、外したり避けられた後に魔獣の攻撃を受けて死人が多かったんだ』
『だから外からの衝撃には壊れる事で威力を殺す構造にして生存率を上げるようにしていってんだ。いつかお前も感謝するときがくるから覚えとけ』
(助かったぜ偉大なる先人達…!)
(そういえば何か…)
「テオ?!?!」
弾き飛ばされたときに、後方にいたテオも同じ方向に避けていたようで自分に巻き込まれ一緒に飛ばされた事を思い出した!
ハッとして後ろを振り返る。
テオが倒れている。
「おい!」
「生きてるか!? おい!!!」
顔を上げるとすぐそばに壁がある。
どうやら広場から繁華街の方へ曲がるときにあった宿屋のようだ。
(俺と一緒にこの宿屋の近くまで飛ばされたのか…)
脈はある。呼吸もしている。打撲だけか折れているのかはパッと見分からない。
下手に動かさずこのままそっとしておこう…
(さて、どうする…)
周囲を見渡す。
よく見ると周辺の建物の上の方に穴がいくつか空いている。
おそらくふっ飛ばされた後、第二陣の人々が魔獣の気を引くために被害を顧みず一斉射撃してくれたのだろう。
おかげで土嚢のところで再び獣との交戦になっている。
左手側の検問所の方へ目を向けると、リネットがこちらへ走ってきているのが見えた。
(そうか、隠れていたんだな。よかった)
(どうする…リネットと一緒にテオを運ぶか…)
(いや、テオの状態が分からないから動かせん…それに救護中に獣がこっちへ来れば2人共守り切れん…)
左手でリネットを制止するジェスチャーを送り、首を振って見せる。
躊躇しながらもリネットは立ち止まり、再び近くの建物に身を隠した。
「さて、テオを守りつつあいつを討伐しなきゃな…」
身体がきちんと動くか確認しながらゆっくりと立ち上がる。
『ギギ……ッ、ズズズズズ……ッ』
突如不吉な音が聞こえる。
(どこだ…? 上か?!)
咄嗟に見上げた。
「ボロ雑巾…?」
そこには半分崩れたベランダと、今にも落下しそうな真っ白な肌の銀髪の少女が横たわっていた。
◇
(落ちてくる…)
(えっ、落ちてくる!?!?)
向かってくる塊を咄嗟にキャッチする。
「ぐはっ」
キャッチには成功したものの衝撃で再び座り込む。
「こいつ昨日のボロ雑巾だよな…? 何してんだ…?」
『ゴッ』
「痛あああああ!!!!」
頭に当たった何かが、抱きかかえる少女の背中へ転がり落ちた。
「痛ぇぇええええ」
よく見ると杖のようだ。
(当たりどころ悪かったら普通に負傷してるぞ…)
そのとき、頭をさすりながら何かを感じた。
聞き馴染みのない音が聴こえる。
(何かが共鳴している…?)
耳を澄ませ発信源を探る。
(ポケットか…?)
右手をポケットに突っ込んでみると硬いものに触れた。
(何か入れてたか…?)
取り出してみると、淡い光を発する紫色の石が装飾された首飾りだった。
(これは…昨日リネットから預かった首飾りか…?)
目の前にある紫の石と倒れている少女。
エリアンは直感的に恐怖のようなものを感じた。




