第21話 会敵
走って戻りたい状況だが、一行は駆け足で宿へ向かう。
テオはさすがに走り詰めでしんどくなってきていた。
リネットも同様に見える。
そんな中でエリアンは2人のペースに合わせて移動しながら説明をする。
「改めて確認するが、魔獣はアノマライトを取り込んでいるか持ち歩いている。だから基本的には物理攻撃だ」
「銃火器メイン、距離を取っての物理弾を射出する中距離用魔法具が最適解だろう。無効化の射程が想定以上に広かったときに備え、火薬モードと魔法射出モードが切り替えられるものを優先とする」
「ハァ…。つまり…ハァ…。氷塊砲…ハァ…。だな…ハァ」
「そうなるな。万が一近接戦になったときを考えると近接武器も…いや、剣やナイフ程度で有効なダメージを与えられるとは考えにくい。やはり銃火器がメインか…」
「氷塊砲は近接向きではないが、俺なら懐に潜り込んで撃つ事も可能なはずだ。近距離からの火薬モードでの砲撃なら有効打になりえる」
(このおっさん移動しまくって指示出しまくって今も駆け足で移動しながらブツブツ言ってんのに、なんで息切れしてないんだよ…)
テオの不可解だと言わんばかりの視線を意にも介さずエリアンは続ける。
「壁上から俺が撃ちまくるからテオはサポートを頼む! 予備の氷塊砲と装填用の氷塊生成魔法具も何個か持っていって常に最大硬度の氷塊を2発以上生成しててくれ!」
「リネットは遠方で最前線と第二陣との連絡役、あと救護を頼む。今回は俺達だけじゃなくて大勢の兵士との連携も必要だ」
「フレアガンや救護セット、弾は合図用の信号弾や着火用の火炎弾など諸々必要そうなものを揃えて広場近くで待機していてくれ!」
テオとリネットは無言で頷いた。
◇
宿に到着するとリネットの部屋兼荷物部屋へ駆け込む。
テオは指示された装備を集めながら徐々に息が整ってきたのを感じる。
壁上での動きを頭の中で想定する余裕も出てきた。
(おそらく1番重要なのは氷塊砲の弾生成だな。予備も含めて4つは持っていっておくか)
(氷塊砲は俺のとリネットの分の2つがあるけど、これはエリアンの予備としてどっちも持っていきつつ、状況次第では俺も撃てるようにして)
(でもこれだと両手塞がるし『空気圧縮』使えないなぁ…ってそうだった。上書きしちまったんだ!)
「エリアン! コピーどうする? なんか見とくか? ただ今からだと実戦で使えるまでになるか怪しいと思うけど」
エリアンの準備する手が少し止まる。
「そうだったな。うーん。一応今回の役割的には使わんと思うけどどうするか…」
息が落ち着いてきたリネットが割り込む。
「やめといた方がいいんじゃないですかねぇ。前に直前で防犯用の放電魔法具を覚えたとき、間違って自分に放電してたじゃないですかぁ…」
「そんな事もあったな…。身体が痺れて動けないテオを担いで帰ったのめんどくさかったなぁ。よし、今回は無しでいこう」
エリアンは苦笑いしながら準備を再開する。
「おい、嫌な事思い出させんなよ…」
テオもため息をついて準備を再開した。
◇
10分程で準備を終え宿を出る。
検問所方面を見ると閉門が完了し、門の後方部隊が準備を進めている。
防壁上で動く人影も事前に告げていた100人近くいるように見える。
中央広場の方を見ると避難をする住民と駆けつけた第二陣でごった返している。
目の前の通りは網の射出装置を押す兵士が門の方へ移動中だ。
「ほんの1時間前は平和そのものだったのにもう戦場の空気感だな」
エリアンはそう呟いてリネットの方を見る。
「じゃあ手筈通り頼む」
リネットが頷くのを確認してからこちらを見る。
「行くぞ」
再び検問所の方へ駆け出した。
………
……
…
「熊が魔獣だった場合はとにかく中距離から遠距離での戦闘を意識しろ。近距離の必要があれば俺がやるが、それ以外のやつがやる事は基本的に無いものとして指示を聞いてくれ」
移動しながらも作戦の確認が続く。
「もし魔獣じゃない場合。要はアノマライトを何らかの方法で身に着けていたり、手…? いや前足か。前足なんかで持っている場合は、それを引き剥がすのを最優先だ」
「ただし、引き剥がせたとしてもやはり中距離から遠距離が主体なのと、近距離の必要がある場合は俺がやるというのは変わらずだ」
「おう…ハァ」
氷塊砲2つとその他魔法具を担いでの移動はバランスも悪く先ほどまでよりも更に疲れる。
エリアンも氷塊砲は1つだけとはいえ、その他いろいろと魔法具や銃火器を装備しているためかなり重いはずだ。
だが相変わらず息を切らさずに喋り続けている。
(くっそー…。帝都に戻ったら体力付けよ…)
そんな事を考えながら、射出機を押す兵士を何組か追い越し、検問所の中で準備をする兵士の顔が見えるくらいの距離へ来たときだった。
「ヴォオォォォォァァッ!!!」
怒りに満ちた獣の咆哮が響き渡った。
◇
「思ったより早かったな…!」
検問所の近くで所長を見つけて駆け寄る。
「総員準備は出来ていますか!?」
「つい先程。壁上部隊はいつでも狙撃可能と聞いています」
「よし、ありがとうございます! 門裏の兵士たちに手筈の説明は?」
「そちらも伝達済みです」
「了解です! では我々も壁上の迎撃に加わります! 下の指揮はこのままお願いします!」
「テオ! こっちだ!」
検問所の階段を駆け上がり壁上へ出る。
エリアンは逸る気持ちを抑えるように、一瞬呼吸を整え目の前にいる兵士に聞く。
「標的はどこですか?」
「あそこです!」
兵士に指を差された方角を見る。
距離感が狂いそうになるその巨躯の主と目が合ったような気がした。
「ようやく会えたな」
改めて周囲の草木の高さと見比べる。
「でかいな。6mあってもおかしくない」
テオもまじまじと見つめる。
「そうだな。あとやっぱ打ち消してるな。色が無い」
「あぁ。俺も何も聴こえん。聴こえなさすぎて確かにやつがそこにいる事が分かる」
時刻は13時。
衝突への秒読みは終わりへと近づいている。
獣に支配された死の空気を運ぶように北風が吹き始めていた。




