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アマルガムの魔匠  作者: 字書き狸
交易港ナウマリスを覆う暗雲

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第16話 邂逅

「あれぇ? なんですかねあのでっかいボロ雑巾みたいなの」

広場から繁華街方面へ曲がるところで、意気揚々と闊歩するリネットが何やら発見したようだ。


テオはリネットが指さす方を見てみる。

「どれだ? あぁ、何だあれ」

繁華街の入口に立つ宿。

その扉近くにボロ雑巾のような塊が落ちていた。


テオは近寄ってみる。

雨と混じった土が泥になり、その泥に塗れているようだ。


「ん? えぇぇ!? 人じゃねぇか、びっくりした!」

テオのリアクションをみてリネットも駆け寄る。


「え? あ、ほんとだ…。酔っぱらいですかねぇ…」


よく見ると10〜20代くらいの若い女性だ。

が、かなりやつれて…というか干からびているように見える…。


「なんでこんな服がボロボロに…いや、元から露出が多い感じでボロボロに見えているだけか…?」


「泥でぐちょぐちょのローブを抱えてますねぇ」


「なんでローブを被ってないんだ…?」

「ん〜? でもこの何か特徴的な色どこかで…」

外見には見覚えがないが、微弱に発する色には見覚えがあった。

しかもかなり特徴的である。

(何か…色が生きている…ような…)


「え? この酔っぱらいか行き倒れか分からない不審な人がお知り合いなんですか…?」

ちょっと引き気味に尋ねるリネット。


「知り合いなわけあるか! うーん、聞き込みしてるとき見たのかなぁ」

「あ! 初日に屋根の上で寝てたやつじゃん!」

ナウマリスに到着した日の事を思い出す。


「あぁ。いましたねぇ。そんな人」

「テオはいつの間にそんな変な人とお知り合いに…?」


「だから知り合いじゃねぇって…。あのとき見かけただけだよ…」




「屋根の上で…?」

それを聞き、後方でボロ雑巾を見守っていたエリアンが何かを察した。

「あぁ。なるほど。じゃあ共生者だな」



     ◇



「共生者?」

テオは考える。


発現者と起動者なら知っている。

魔法具無しで空間上にエーテルの魔旋を描く事が出来る者、つまり道具を使わずに魔法を使える者が発現者。

魔法具が必要なものの、魔法具に十分なエーテルを流し込むエーテル操作能力がある者が起動者。

例外的な存在もいるが、魔法を扱う者はおおよそ大きくこの2つに属するのだ。

特に発現者の方は希少な存在であり、大半の者は起動者である。


共生者とは聞いた事がない。

つまり例外的な存在なのだろうか。


「大樹の防壁に囲まれた都市シルヴァレムの住人の事だ。彼らは帝都の庇護下に収まらず、独自の自治を行っている」

「そして最大の特徴は、帝都の歴史より遥か以前から植物と共生してきた事で、我々の魔法とは異なる体系の魔法を扱う点だ。植物の力を引き出す…とかなんとか」


「シルヴァレムか…名前だけなら聞いた事あるな。ちょこちょこ帝都と争いが起きてなかったっけ」


「うーん…ちょっと学術院とはソリが合わないところがあるからな…。昔は武力衝突もあったようだが…」

「だが少なくとも現在は戦争状態ではないはずだ。逆に軍部関係者とは良好という噂も聞くくらいだしな」


「へぇ。なんか複雑な関係なんだな」

「それで何でこのボロ雑巾が共生者って分かるんだ?」


「初日屋根の上で寝てたんだろ? 共生者は生態が植物に近く変貌していて、いわゆる光合成をする事でオドの生成が出来るらしい」


「はぁなるほど。それで晴れてたから屋根の上に。ってもっとマシな場所あるだろ…」


「…」

「そして2日目から今日まで丸2日とちょっとくらいか? 全然太陽が出てないだろ。本来は共生者単体で活動する分には問題ないはずなんだが…」

「たぶんその杖だな。ボロ雑巾を干してる感じになっちゃってるその棒みたいなやつ」


「あぁ、これ杖か。確かによく見たらそうだな。なんか色出てるし」


「まぁ弱ってるせいでだいぶ微弱だがな…そっちのボロ雑巾も…」

「確か共生者の持つ装備は、オドを供給し続ける事で生命を維持している状態らしい」

「彼らはそのおかげで故郷を離れても植物の力を引き出した独自の魔法が使えるって事だった気がする」


「は〜、つまりこの天気でオド不足に陥って行き倒れていると…大丈夫なの?」


「一応死にはしないはずだ。相当しんどいだろうがな…」


リネットがボロ雑巾の転がっているすぐ傍の建物を見上げる。

「ここの宿に泊まってる人なんですかねぇ。ちょっと待っててください」

「すいませーん。どなたかいますかぁ?」


1分程で戻ってくる。

「誰もいないみたいですねぇ。どうしましょう」


エリアンはほんの少し考えてやれやれといった顔をする。

「ここ宿だろ? たぶんいっとき出てるだけでそのうち誰か戻ってくるはずだし、客ならそのときに声かけるだろ」

「客じゃなくても入口のところにボロ雑巾が転がってたら迷惑だろうし詰め所に連絡するとか何かしら対処するだろうから、放っておいて問題ないと思うぞ」


「うーん、そうですねぇ。可哀想だから水飲めるように水筒でも置いておきますかぁ」

リネットが水筒をお供えした事で、行き倒れから酔っぱらい感が強くなった気がしたが、一行は再び酒場を目指して歩き出したのであった。




(一瞬変な音が聴こえた気がしたが、常備している魔法具が何かと共振したのか?)

エリアンはその音が少し気になったが、たまにあるので考えるのをやめそのまま歩いていった。


そのときリネットの首飾りがわずかに光っていた事に、誰も気が付く事はなかった。

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