第15話 やまない雨
「あー。疲れた…」
風呂からあがったテオはベッドに仰向けに寝転がる。
あの後、気象装置が完全に正常動作している事が分かったのですぐに引き返したのだ。
防壁のリネットと合流し、夕方過ぎには宿へ帰り着いていた。
「今日はここまでにして、ゆっくり休もう。いろいろ疲れただろうしな」
熱を発生させるレゾナイトと風を発生させるレゾナイトを組み合わせた魔法具で髪を乾かしながら、エリアンが戻ってきた。
「そうだな。オドもギリギリだったし体もしんどい…」
リネットが隣の部屋から様子を見に来る。
「2人ともお疲れ様です。夕飯は私が買ってくるのでゆっくりしててください」
エリアンが扉の方を振り向く。
「おぉ、サンキュー。美味いもんが食いたいっす」
テオも顔を上げ扉の方を見る。
「俺もー」
「はいはい。安くて栄養ありそうで安くて多くて安いやつ買ってきますねぇ」
そう言い残しリネットは買い物に行った。
「ひたすら安さを求めている事が分かったな…」
テオは再びストンと頭を落とす。
「あぁ…全く期待出来んぞあれは…」
エリアンは力なく魔法具を机の上に置いた。
◇
リネットを待つ間、エリアンは少し頭を整理する事にした。
ベッドに大の字に寝転んで天井を見つめる。
気象装置は正常に動作し、下降気流はきちんと発生していた。
そうである以上、やはり雨が続いたのは偶然なのだろうか。
昼頃には小降りになり、更に数時間後にはやんでいた。
そうなると熊の調査の手がかりが全くない状態に戻る。
「なぁ、やっぱ雨が降ってたのは偶然って事なのかな?」
今日のテオはだいたい同じ事を考えているようだ。
「うーーーん。なんか引っかかる…が…でも気象装置はちゃんと動いてたしなぁ」
「それなぁ…」
「正直良い案が思い浮かばんが…。まぁこういうのは考えても仕方ない。時間が解決してくれる事もある」
「そういうもんか」
「あぁ。明日晴れたら、気象装置はずっと動いていたが2日間だけ偶々低気圧が強くて雨が降ってたって事だろうしな。果報は寝て待てだ」
「まぁそうか」
「そんで念のため明日の朝は港方面にいって、ここ数日海がどうだったかも聞いてみよう。たぶんすんごい荒れてたって事ですっきりするはずだ」
「そしたらまた切り替えて改めて調査方針を決め直そう」
「そうすっか。あー腹減ったなぁ。リネットまだぁ?」
「リネットさんそんな熊みたいな瞬発力してないだろ…さっき出ていったばっかだぞ…」
◇
4月4日 木曜日。
「なんでじゃああああああああああああああ!!!!!」
謎の奇声でテオは目覚めた。
窓の方を見るとエリアンが立っている。
どうやら奇声の主のようだ。
「どうしたんだ朝から…頭おかしくなっちゃったか…? いつもおかしいけど…」
「痛っ」
げんこつを食らう。
「それでいったい何があったんだよ…」
エリアンが狼狽しながら窓の外を指さす。
「外を見ろ…」
そこには昨夜の予想を裏切る光景が広がっていた。
「あ、あ、あ、雨が降っとる…」
「…」
「なんでじゃああああああああああああああ!!!!!」
「あああああああああああああ!!!!!」
「どうしたんですぅ2人とも朝から…頭おかしくなっちゃったんですかぁ…? いつもおかしいですけど…」
隣の部屋から何事かと起きてくるリネット。
そしてやはりげんこつを食らう。
「外を見ろ…」
「…」
「なんでじゃああああああああああああああ!!!!!」
「あああああああああああああ!!!!!」
「いやああああああああああああああああ!!!!!」
………
……
…
「さて…一通り発狂してみんな落ち着いたな?」
「お前が1番落ち着くべきだろ」
「そうですよまったくぅ…」
取り乱しはしたがいったん一呼吸置いて冷静になる事にした一行。
「それにしてもどうしたもんか…うーーーん…」
窓の外を見てみるが先ほどと変わらずの雨模様だ。
ぼーっと眺めながら考えてみる。
聞き込みをした。
遺留品は確認した。
現場も調査した。
状況から判断して怪しい場所にも行ってみた。
だが熊が大きいという以外は手がかりとなる情報は得られていない。
後はまた手当たり次第聞き込みをするか、他に怪しい場所を探すか…
ただ相手が相手だ。
探すと言っても北にあるというジャングルのような森だと視界が効かず確実に返り討ちに遭うのが目に見えている。
他にあてがあるかと言われると思いつかない。
消極的ではあるが次の被害が起きるまで出来る事なんて無いのではという気さえしてくる。
(うーん、うーん…)
「よし、飲みにでも行くか」
「は?」
「え?」
エリアンの唐突な提案にこいつ何言い出すんだ急にという顔の2人。
「だって完全に手詰まりじゃん。こういうときはパーッと飲んで騒げばふと良い案が降ってくるってのが古からの言い伝えだろ?」
もう笑うしかないという表情でエリアンが答える。
「それにほら…。昨日の夜も質素なものしか食ってないじゃん…。もう開き直って1日くらい贅沢しちゃおうぜ」
「そんな言い伝えはねぇよ…ただまぁそうだなぁ。一理ある気もしてきた…。最近ひもじいし…」
テオも乗ってきた。
後はリネットだ…。
ここまで節約の鬼と化していた財布の紐の守護神がどう出るか…。
「お酒ですかぁ(ジュルリ)」
ハッとするエリアンとテオ。
走馬灯のように過ぎる数々の記憶。
しかし今更やっぱやめたというのも流れがおかしい…。
美味しいものを食べたいが時を戻して無かった事にしたい気持ちが勝り始める。
「リネット…飲みすぎ注意だからな?」
「お前担いで帰るの嫌だぞ…?」
「2人とも失礼ですね。前は加減を間違えただけじゃないですか!」
((お前はいつも間違えてるから言ってんだよ…!!))
「何をしてるんですか! さっさと準備してください! 行きますよぉ!!」
「「…」」
2人の心配を他所に上機嫌なリネットは先頭に立ち一行を率いて繁華街へ向かうのであった。




