第14話 絢爛
「気象装置へ向かおう」
検問所まで辿り着くなりエリアンが切り出す。
そしてテオが冷静に問い返す。
「体制や装備はどうする? 全員で行くのか?」
そうなるだろうなと予想していた。
手がかりが少なすぎるのだ。
このままの状態で3級がやられるレベルの獣を相手取るのは危険すぎる。
手がかりを求めるなら今朝話をしていた気象装置を調べるしかない。
「いや、いざというときに救援要請をしなければいけない。さっきくらいの距離なら救援弾の音で防壁上の衛兵が気づくだろうが、道中となると常に見ていないと見落とすだろう」
「リネットはここに残って防壁上で待機。救援弾を確認次第応援を要請してくれ」
「逆に港町側で何か起きたり不穏な気配を察知した場合は、俺達に信号弾で知らせてくれ。すぐに引き返す」
「分かりました…!」
緊張の面持ちでリネットが返事をする。
身の危険は無いが酷な役回りではある。
見落としは仲間の命に関わるため気を抜けず、さらに救援弾を視認するという事は仲間が危機に瀕している事を意味する。
「納品は済ませているので万が一エリアンが熊に食べられちゃっても大丈夫です…! 気をつけて行ってきてください!」
あまり心配はいらなかったようだ。
テオは複雑な心境で安心する。
「…。ゴホン」
エリアンは咳払いをして続ける。
「テオは俺と来い。熊と遭遇時には迷わず離脱を最優先とするぞ」
「お前は後方を警戒しつつ信号弾が見えたら知らせろ。即撤退だ。俺は全方位を警戒しつつ異変を感じたら知らせる。その場合も即撤退だ」
テオは無言で頷いた。
◇
検問所の番兵に聞いたところ、装置は街の北にあり、ここから道なりに1時間ほどとの事だ。
綺麗に整備されているわけではないらしいが、初見の人間でも迷わずに辿り着けるらしい。
懐中時計を確認すると時刻は15時を過ぎたあたり。詰め所を出るときにかかっていた時計は14時頃だったからおそらくズレてはいないだろう。
「あまり長居は出来ねぇよな…」
後方を警戒しつつテオが呟く。
「あぁ。日が暮れると危険度は跳ね上がる。しかも装置から少し先には例のジャングルもあるらしい。熊以外も出るかもしれん」
「いったんは道の確認だけでも出来れば及第点だ。遠目からでも破壊の有無が分かれば尚良し」
「おう」
「まずは近づかせない。近づかれても防御は考えずに回避または迎撃を優先するぞ。魔法は即発動出来るものを優先する」
「空気圧縮は鋭い爪の威力を考えると耐えられない可能性がある。選択肢から除外するぞ」
「そうだな」
「氷塊砲は火薬モードかつ氷塊生成機能をオン、常に指をトリガーにかけた状態で備えておけ。往復2時間程度ならオドは問題無いだろう」
「おう」
「俺も氷塊砲を構えつつ、帯電魔法具を常時起動しいつでも電撃を放てるようにしておく」
「さらに煙幕弾で足止めをはかる。この煙幕は唐辛子の成分を含んだもので熊の撃退に使えそうだから持ってきた特製品だ。たぶん効く」
「…」
(たぶんかよ)
「初撃を凌いだらお前の爆風魔法具で上昇、俺が担いでるグライダーを展開して後方に再度爆風、飛んで逃げるぞ」
「この前試したときみたいにグライダーの展開にもたついたらマジで死ぬから頼むぞ…」
「ウン…」
頼りないような気もするが、これでも2級の資格を持っているエリアンである。
全然そうは見えないが高度な近接戦闘もこなせないと2級の資格は得られない。
全然見えないが。
それ以外にも、打てる手は多数保持しているはずだ。
工房で働き始めてもう7年になる。
ずっと見てきたが、アホなところはあるけど無謀なやつではない。
確実に無傷で…という保証が出来ないだけで、何かしら切り抜ける自信はあるからこうして調査に向かっているのだろう。
(集中だ。与えられた役割をこなして無事に帰還する)
(それだけを考えろ)
(…。全然割に合ってない仕事だけど…)
(集中だ…)
魔感を見ているとはいえ精神も消耗する行軍だ。
魔獣でない可能性も出てきたため、パッと見では分からないほど微細な色しか見えないかもしれない。
オドやエーテルを見るだけでなく、物質もきちんと見て判断をしなければならない。
だが慎重に進みすぎると日が暮れてしまい危険なため、慎重かつ一定の速度は維持しないといけない。
(なんつうハードな仕事だよ…毎度毎度厄介なもん持ってきやがって…)
(エリアンはなんだかんだでノーマンを困らせるような事は言わないからなぁ)
(帰ったら俺が文句を言ってやる…)
(集中だ…)
「見えてきたぞ」
エリアンの声にハッとする。
体感は数時間にも感じたが、日の傾き具合を見ると予定通り1時間ほどで着いたのだろう。
(これなら帰りも暗くなる前に帰り着けそうだな)
少しほっとするテオの耳に、エリアンの不穏な呟きが聞こえた。
「…。何か変だな…」
「…?」
テオは引き続き後方を警戒しているが、特に異変は感じない。
少し強い北風が心地良い。
風に煽られる草木の程よいざわめき。
寝転がればそのまま眠れそうな程穏やかな空間だ。
「どういう事だ…」
「…」
「おかしい…。おかしいはずなのに何もおかしくない…」
「…?」
「気象装置はとても美しい音を奏でている…」
背中が何かにぶつかる。
振り返るとエリアンが立ち尽くしていた。
前方を見ると、2人は気象装置のある建物の全貌が見える位置にまで来ていた。
そしてエリアンのその向こうに見える気象装置が視界に入ったテオも言葉を失った。
事前の予想では壊れているはずだった。
だが確かに、そこには機能的に美しく舞うエーテルの色彩が広がっていた。




